ゴム (ヘッドセット・リング after)

春嵐

ゴム.

「はい。指を出して」


「やだ」


「左手」


「いやです」


「ヘッドセット噛まないで。高いんだよそれ」


「ゴム」


「ゴム?」


「ゴムを買ってきてください」


「なんで。輪ゴムならキッチンに」


「指環をわたしの指にはめるまえに。することがあるよね?」


「え、婚姻届?」


「ゴム」


「あ」


「ゴムして」


「いや、え。するの?」


「するよ?」


「するんだ。うそ。今までしなかったのに」


「なんで。逆に聞きたいです。なぜしないんですか?」


「ことわられたら、しぬから」


「ことわらないから、して」


「え」


「なんで焦ってるの」


「いや、焦るよ?」


「わかりました。わたしよく分かりました。いやなんでしょ。ゴム買うの」


「ち、ちがっ」


「ほんとのこと言わないとヘッドセット噛みちぎるよ?」


「だってレジ行くといつも女性店員だから。女性店員だから。女性、店員、だったもの」


「わかりました。わたしが買ってきます」


「あっ、まっ、ちょ」


「いいですか。外に出るときは、いってきますって言ってください。おねがいしますよ。勝手に外に飛び出ると、泣くよ?」


「はい。ごめんなさい」


「いい。逃げちゃだめだから。いいね?」


「はい。ごめんなさい」


扉が閉まる音。


そして。


扉が開く音。


「やっぱりこわいから一緒に来て?」


「あなたもですか」

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