ヘッドセット・リング
春嵐
01 ENDmarker.
彼の使っていた、ヘッドセット。
彼がいない部屋で、残されたもの。
手にとって。匂いをかいでみる。シャンプーの匂い。風呂に入ったあと、いつも彼はヘッドセットで何かを聴きながら、眠りに落ちる。
違う。わたしが欲しいのは彼の匂いなのに。ヘッドセットからは、それがしない。
そう。彼はついさっきまで、ここにいたのに。今はいない。
何がわるかったのか。
好きだって、伝えたからか。愛が重すぎたのか。ふたりで暮らしてるのに、何も進展がなくて。好きだと伝えたことが。だめだったのか。
彼のなかで、わたしは、このヘッドセットと同じレベルだったのか。部屋に置き忘れても、別に構わない程度のもの。
一人だけ残された部屋。彼のヘッドセット。何も聴こえない。自分の心臓の音。とても小さな、泣き声。
彼のヘッドセットしか。
彼が。彼がいたことを証明するものが。ない。
小さく泣くだけのわたし。
二度と彼が使うことはない、ヘッドセット。
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