第24話 超えた者
ドンキホーテは空中へと飛び降りた。何も考えがなかったわけではない。ドンキホーテはマントに付与された魔法を発動させる。落下の速度を落とし高いところから落ちても死なずに済む魔法である。しかし着地した後はどうするのか。エイダは死んでしまった。
「くっそ!まだ、なんとかならないのか!」
ドンキホーテは空中で傷の様子を見る。だめだ、傷は心臓にまで達している。これでは高位の回復魔法といえど蘇生はできない。ドンキホーテの目から涙が溢れる。
(可哀想に…俺が飛空挺に乗ろうなどと言わなければ。)
ドンキホーテは絶望とともに森の中へと着陸する。せめて、安らかに眠れるように墓を建ててやらねば、ドンキホーテはそう思いどこか適した場所がないか当たりを見回す。エイダの亡骸を抱えながら。
するとドンキホーテの腕の中から誰かが咳き込むような音が聞こえた。エイダだ。エイダが血を吐き出した。
「これは…!?」
ドンキホーテは観察すると今まで空いていた。傷の口は塞がっており。残るのはただの血のシミだけとなった。
ありえないと言う言葉がドンキホーテの心の中を占める。蘇生魔法などと言う域ではない。これはまさしく…
「不死……」
思わず呟く。エイダはまさしく死を超えるもの、不死だ。なぜエイダのことを躍起になって刺客が探しているのか。ドンキホーテは改めて理解した。
不死の力など、喉から手が出るほど欲しい者はいくらでもいるだろう。そして恐らくあの3人組はそれを理解した上でエイダを刺したのだ。現に今、エイダは心臓を刺され気を失っている。これで無力化できるのだろう。
「俺たちは、とんでもない仕事を引き受けちまったな。」
また独り言だ、しかしドンキホーテはそんなことを言いつつも、笑っていた。エイダが生きていた。そのことが何よりも嬉しかった。
(エイダ…お前はアレン先生を、俺の親友を救ってくれた。今度は俺の番さ。)
その時だドンキホーテがアレン先生のことを思い出したのは。そして今まで起こっていたことを再び思い出させるかのように、ドンキホーテの頭上を破損した観光用の飛空挺が飛んで行った。
「あああああ!!!!!なんでこうなるんじゃ!おい!船長なんとかせい!」
「いやそう言われましても!正気に戻していただいたのはありがたいんですけど!僕、船長じゃなくて見習いなんですよ!」
「しょうがないじゃろ!本物の船長は正気に戻した瞬間泡吹いてぶっ倒れた。もうお前しか残っておらん!お前が実質船長じゃ!」
「そんな!!!」
少し前、アレン先生は、ドンキホーテが敵を追ったのを確認すると、観光用の飛空挺が落ちつつあるのを理解した。乗客を見捨てるわけにも行かなかったアレン先生はブリッジへと行き、乗組員の精神異常を1人1人直していったのだが、直したからといってすぐにどうにかなるわけではなかった。なにせ先程まで凶暴化し、お互いを傷つけ合った者たちだ正気に戻した途端に疲労から気を失ってしまうものが多く。船長に至っては、そのバトルロワイヤルと化したブリッジの中で唯一、その恵まれた肉体のお陰で大した怪我もなく、疲労もしてなかった癖に、状況を理解した瞬間泡を吹いて倒れてしまった。
その結果、残るはこの明らかに「見習い」といった感じの乗組員しか頼れるものはいなかったのである。
「良いか!?ワシは飛空挺のことは全くわからん!じゃが、そこらに伸びている乗組員の代わりにレバーを引くことはできるぞ!」
「わかりました。僕も覚悟を決めました。任せてください。こう見えても将来の夢は船長なんです!」
だからどうした。
とにかくアレン先生は根拠ない自信ではあるが。見習いの青年の謎の頼もしさに心打たれ、2人で協力をしなんとか飛空挺を、立て直そうと心に誓った。うまくいけば近くの港に着くことができ助かるかもしれない。そう希望に包まれた瞬間であった。
結果として、飛空挺は森の木々をなぎ倒して墜落に近い不時着をすることになるのだが。
ドンキホーテは見事に、華麗に、いや奇跡的に無事に不時着した飛空挺に近づいていった。もともと無理が祟ったのであろう。側面に穴が開けられた状態でも運行できたのは飛空挺の設計の良さが現れているが、その損傷にに加えてこの不時着で船はボロボロだ。実質沈んだといってもいいだろう。しかしまだ、形自体は残っているため、このまま住めそうな状態でもあった。
ドンキホーテはエイダを抱えながら、アレン先生を探す。すると近くから聞き覚えのある蹄の音が聞こえてきた。ロシナンテだ
「ロシナンテ!無事だったか!」
ロシナンテは得意げそうに鳴く。ロシナンテはドンキホーテを頭で突き船の中へ行くように促す。ドンキホーテは意図を汲み取ると、エイダを背中に背負い直し飛空挺の中へと入っていった。すると何か諍いの声が聞こえてくる。
「なーにが任せてくださいじゃ!この結果を見ろ!大失敗じゃ!」
「しょうがないでしょ!僕だって頑張ったんですよ!」
口論しているのはどうやらアレン先生のようだ。
「アレン先生!」
ドンキホーテが呼ぶ。
「おお?ドンキホーテに、エイダ!信じておったぞ!全く大変じゃったわ!二度と飛空挺なんぞ乗らんからな!」
「すまねぇな先生。後そこの君飛空挺の船内の寝具を持ってきてもいいかな?怪我人だ。」
「な、エイダ!血が付いているではないか!」
「ええ!?ま、まあ構いませんよ。僕にそんな権限ないけど許可します!」
ドンキホーテは飛空挺内の寝具を外に持ち出しエイダを寝かせる。しかしこれで終わりではない、次は崩れる心配はないとはいえ飛空挺内の乗客が心配だ。助けに行かねばならない。
だがその前にドンキホーテはアレン先生にどうしても伝えなければいけないことがあった。
「アレン先生、伝えたいことがある。エイダのことだ。」
「ああ、ワシも気になっていた。この出血量、死に至るのレベルじゃ。じゃがエイダは生きておる。また神の使徒の力か?」
恐らく、とドンキホーテは付け足しこういった
「アレン先生、エイダは不死だ。」
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