第8話 夢会議

大量の屍を含んだ黒い水はドンキホーテ達の家を飲み込むと家を包み込むようにまるで意思があるかの様に球状に変化した。潰した家から出てきた者たちを逃がさないためのさしずめ屍と液体の牢獄と言ってもいいシロモノだ。しかしここで黒い水と骸はある事に気づく。


家が潰れていないのだ。



アレン先生は息をついた。


「危なかったのう。少し結界が遅れていたら死ぬところじゃったわ。」


「隼が殺されるとはな、かなりやばいやつがいるな先生。」


「ああ、そうじゃな特にあやつはワシのお気に入りの一匹、生半可な戦士や魔法使いでは討ち取られないと踏んでおったが。まさかそのレベルの兵士を備えておるとはな。」


「しかもネクロマンサーまでだ、あの黒い水おそらく・・・」


「ああ、「屍の大海」じゃろうな。」


状況について行けずエイダは、恐怖から肩で息をしていた。


「い、いまのはなんなの?」


エイダは息を整えて言う。まだそれでも恐怖を拭えなかった。なにせ窓の外には死体が、まるで魚群のように蠢めいているのだ。


「エイダ落ち着いてワシの目を見ろ。」


澄んだアレン先生の青い瞳がエイダを見据える。エイダもまたアレン先生の目を見た。


「良いか外を見てはいかん外にあるのは「屍の大海」というネクロマンサーが無数の死体で作り出した。死体のスライムのようなものじゃ。おぞましい見た目故に見るだけで再び恐怖に駆られてしまうぞ。」


エイダは黙って頷くもう外の光景を見る勇気はなかった。アレン先生は隼の死体を見ると冷静分析を始めた。


「おそらくこの隼の死体を使い結界の中に入ったのじゃろうなかなりの使い手じゃ、貼ってあった結界はのう、認められたものしか入れない。しかも一度認められたものでもそのものが死ぬと死体は別人扱いされ結界をくぐれなくなる仕様になっておる。」


「じゃあこの隼はなにかい?生きているときに限りなく近い状態まで再現されていたってわけか?!」


「そうじゃな、少なくとも結界が誤認するほどの精巧な死霊術じゃ、かなりの凄腕じゃぞ。」


「私たちは、これからどうなるの?」


エイダは不安そうに聞く。


「心配すんな先生の結界はこの調子なら1日は持つ。だから今日の夜、夢の中でボスとあう」


「どういうこと?」


「ボスは夢と夢をつなげることができるのさ。」


「あれをやるのか、やれやれ、あれ熟睡できなくて嫌いじゃ」


「緊急事態だ我慢してくれ先生。」


そういうとドンキホーテはカーテンで全ての窓を覆い、タンスへと向かう。ドンキホーテはあの不思議な鍵を使いタンスを異次元につながる扉に変身させた。


「エリン、いつもの頼む。」


そう呼ぶとタンスの中から妖精が現れる。


「はいよーいつもの鎧一式ねー!」


エイダはその不思議な光景をまじまじと見つめていた。タンスの中身は夜空が広がり。その中から妖精が現れその妖精は星を様々な鎧の部品に変えていった。


「お、気になるか?妖精倉庫は珍しいものなぁ」


緊急事態だというのにどこか余裕そうな笑みを浮かべながらドンキホーテはエイダに話しかける。

おそらく安心させようとしてくれているのだろう。


「おっとこの夜空の中に入るなよ?ここの中に入ると妖精の国に連れていかれて二度と戻ってこれなくなる。」


そうなんだとエイダはドンキホーテに返す、こんな危機的な状況でもアレン先生の冷静さとドンキホーテの陽気さに少しエイダは救われていた。


「二人ともありがとう」


エイダは素直に感謝を述べた。するとドンキホーテは照れ、アレン先生もまた猫なのに微笑み返したように見えた。


「よせやい、照れくさい。」


ドンキホーテは鎧と装備を着込みまたテーブルの席に着くと

「まあ焦っても仕方ないなボスに隠し通路をあけてもらうまで、俺の娯楽小説でもみんなで読もうぜ。」


となんともまあ大胆なことを言い出した。


「じゃあ私神様の使者の本を読みたいかな」


エイダはそのあまりの可笑しさに緊張がほぐれたのか

カーテンがかけられたおかげで死体が見えなくなったおかげかいつのまにか恐怖は少しだけ和らいでいた。


「二人とも呑気じゃのう。ドンキホーテワシには魔導書じゃ」


へいへいとドンキホーテは魔導書をアレン先生に投げ渡す。3人は敵に囲まれている中奇妙なことに読者をし始めた。ドンキホーテとアレン先生は警戒しつつ精神を落ち着かせなにがあってもいいようにそれと同時にエイダに緊張が伝わらないようにしていた。


エイダはドンキホーテに貸してもらった神様の使者モノの娯楽小説を読んでいた。どうやら伝説や歴史書をもとにした魔王を退治する神の使者の話らしい。

その中に確かにエイダの夢の世界に出てくる建造物の描写があった。それは主人公がこの世界つまりリナトリオンの隣にある地球と呼ばれる異世界にいるときの描写だ。ここで主人公は馬がおらずとも走ることのできる馬車にはねられリナトリオンに来たという。いわゆる転生をしてリナトリオンにこの主人公である神の使者はやってきたのである。


しかしここでエイダに一つの疑問が渦巻いた。この主人公は描写を見る限り前世の記憶を保持しており無くしてなどいなかった。本の注釈を見てみても


【この物語の地球の描写は実際の神の使徒が残されたとされている。地球白書に基づいている】


と書いてあった。つまりこの本の主人公は地球の知識を持ったままこの世界に来たのだ。ところがエイダはその地球の知識が全くない、それどころかこの本を読み始めて地球と神の使徒の存在を知ったくらいだ。

またこの物語によると神の使徒は神に会い特殊な能力を授けられこの世界に来たという。

エイダはその神にもあったことがなかった。

自分は使徒では無いのかならばあの夢はなんなのか。エイダの疑念は結局その本を読んでも晴れることはなかった。

そしてそうこうしている内にアレン先生が口を開いた。


「もう夜じゃな」


「よしみんな寝るぞ!」


「え、はい」


思わず面を食らったエイダだったがそれでもこの家を脱出したい一心ですぐに目を閉じた。するといつもより早く眠りについた。


気づくと周りは見知らぬ部屋にエイダはいた。見覚えのない本棚、机にソファどれも先ほどの家には間違いなくない高価なものだ。そこでようやくエイダはここは夢の中なのだと気づくあまりにも現実感があり気づかなかったのだ。ソファにはドンキホーテとアレン先生が座っている。


「もう少しでボスが来るぜ。そこらへんの椅子かソファに座ってな。」


「すごい不思議な気分なんだけど。ここって夢?」


「そうだぜエイダのここは夢会議の会議場ここで緊急事態の時話すんだ。使用者にすげー負担がかかるからな一ヶ月に一回しか使うことを許されていないんだ。」


「私たちは大丈夫なの?夢から覚めたら動けなくなってたりしない?」


「心配するでない。負担といっても肉体的ではない精神的なものじゃ、ここに長く良すぎると現実と夢の区別がつかなくなり大変危険なんじゃ。」


恐ろしい話だ。エイダはそう思った。確かにこの世界は現実と区別がつかないここが本当の世界だと騙されても気がつかないだろう。 エイダはそう思った。


「そうだからちゃんと現実と夢の世界を区別するために一ヶ月に一回という制限を設けているのさ。エイダ・マカロ君。」


いつのまにかエイダの背後に男がいた。その男は太っており黒い髪色で黒いタキシードを着ていた。目は細く開いているのか閉じているのかわからない。



「はじめまして僕が黒い羊のボス、マリデ・ヴェルデだ。よろしく頼むよ。エイダ・マカロ君。」





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