第6話 新宿少女歌劇団

 神崎は「俺は神崎次郎だ」と言った。

 彼が " しのぶ " と名付けたこの少女は、白河桂里奈である。


 自分を国民的アイドルと自覚している白河は、神崎が自分のことを知らないことについて少し驚いたが、むしろその方がありがたいかなとも思った。

 いや、自分が他人から見えなくなっている状態であるのにも関わらず、この男には見えているらしいことにも驚きはしたのであるが。


 神崎は「警官が白河という芸能人を探していた」と言った。

 少女は何かがおかしいと感じた。

 そうである。

 他人から見えなくなっている状態であるのにも関わらず、なぜその警官はここへ来たのだろうか?

 神崎以外にも私のことが見える人間がいて、通報でもされたのだろうか?

 そもそも、警官が来たという話し自体、神崎の作り話しであろうか?

 彼女は不思議に思った。


 とそこへ、いやに恰幅のいい老人がやってきた。

 この老人は神崎探偵事務所にしばしばやって来るのだ。


 なんとか興業とかいう会社の会長であるらしく、新宿少女歌劇団という小劇場を運営しているらしい。と神崎は思っている。

 通常の人間であれば、この新宿という街で少女歌劇団なる劇場を運営しているという時点で何かいかがわしいものを感じるはずであるのだが。


 しかし、神崎はこの一見すると好々爺こうこうやに見える男を、年をとって家族からも相手されなくなった可哀そうな老人だと考えていた。

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