第18話 1-18 朝食にて考察
そして笑顔の彼ジェストレアスに案内されて、朝食会場へと向かった。
まあ夕べもお邪魔した屋敷の食堂なのだが、本当にここは広い。
テーブルを片付けたら、身内だけなら優雅に舞踏会が開けてしまうだろう。
夕食と違って本来なら小ぢんまりとした印象の朝食だからこそ、改めてそう思う。
しかし、別にそれが嫌という事ではない。
この屋敷の持つ、ある意味でアットホームな印象がそうはさせないのだ。
「おはようございます、ホムラ」
「よく眠れたかね」
もう待ってくれていた当主ご夫妻が挨拶してくれる。
「おはようございます、それはもう。
ここは本当に良い家です」
「そう思うかね?」
「ええ、そのあたりはここも私の世界もそう変わらないかと。
まあ前にも言ったように私の見識など、たいした事はないですが」
「そうかね。
今日はどうするんだね」
「とりあえず、宮殿の部屋に戻りますよ。
あの警備隊の世話係のお姉さんが様子を見に来て、私がいないとまた思いっきりブチ切れるでしょう。
彼女にとって、私なんぞはただの厄介ごと。
日頃の業務に上乗せされた、追加で上積みの余計な仕事に過ぎませんのでねえ」
美味しそうな、渦巻きっぽい感じのパンをバラしながら俺は楽しそうに言った。
朝一番に突してきて俺が部屋にいなかったらあのお姉さん、また大噴火しているんじゃないのか。
でも上の人に文句を付けたら名門侯爵家にお邪魔していたなんていったら、またシオシオのヘナヘナで米つきバッタ状態になっちゃうかなー。
「そうかね。またいつでも遊びにおいで」
「そうよー、夕べは楽しかったわ」
「私もですよー、ありがとうございます」
孤独だった俺の心を、こんな異世界の人が、しかも侯爵家の御当主夫妻なんて方々が癒してくるなんて。
人生なんて物の先はわからない。
どんなに暗澹とした気持ちでいたって翌日にはガラっと変わってしまうのかもしれない。
「そういえば。なあ、アントニウス」
「なんだ」
美味いサラダをよく味わいながら片付けながら訊く俺に、彼もスープをスプーンで音もなく優雅に飲みながら言った。
「あんたの俺に対する監視任務っていつまで続くんだい」
「そういう機密の話を今聞くか。
まあいいけどな。
そうだな、所詮は非常事態発生に関係する定常業務に過ぎない。
通常なら三日というところだろう」
「あ、そうなんだ」
「ああ、逆に言えば、それは仕事中には明日までしかお前の世話は焼けないという意味でもある。
どこかへ案内してほしいなら、今日明日くらいまでに考えておけ」
「はいよー」
そんな俺達の様子を御両親は楽しそうに見ていたし、実は他にもう一人初対面のご家族がいらした。
なんかこう優雅で、おっとりとした感じなのだが美形で、何というのか存在感があるという雰囲気なのだ。
だが跡取りにしては雰囲気が落ち着き過ぎている気がする。
そして彼の方から言ってくれたのだ。
「弟よ、そろそろ私にも落ち人様を紹介してくれないか」
「ああ、わかった。
ホムラ、そこにいるのが三男の兄貴で神官のディクトリウスだ」
「あ、初めまして。
ホムラ・ライデンです」
「ディクトリウスです、よろしく。
あなたのような賓客を我が家に迎えられて嬉しいですよ」
「学生時代から優秀で、その方面に幼少の頃から才能のあった兄貴は神殿から熱烈な要請があって神官として神殿入りしたのさ。
お前の興味の深い魔法は神殿の管轄だ。
兄貴は一見するとただの優男に見えるが、実は優秀な魔法使いだぞ」
「マジっすかー!」
だが彼は俺のテーブルを乗り越えんばかりの、あまりの食いつきように笑っていた。
「ははは、落ち人様は魔法に興味がおありかな。
この大帝国ブラストニアでは落ち人様といえば魔法とまで言われる。
神殿でも昨日はあなたの話題で持ち切りだった。
よかったら神殿まで見学に来ますか?
一切お金など必要ありませんよ」
無料サービスか、いいねえ。
これはなんとしても、いかいでか~!
「是非!
あ、でも一回部屋に帰らないと警備隊の雌狼が暴れちゃいそう」
「はっはっは、そう言えばあのキャセルがあなたの面倒を見ているのでしたね」
「あいつを知っているのですか?
あの女、出来が悪いので俺をほったらかしで自分の仕事ばかりしているんですけど。
俺の面倒を見てくれているのは何故か監視係であるあなたの弟さんだ」
「はは、現場の仕事は大変なんですよ。
忙しい中でも神殿の警備なども応援に来てくれているのです。
あの子もいい子なんですよ」
ふうん。あいつも年上には受けがいいんだ。
でも面倒見てもらえない年下からは受けが悪そう。
そういや、このディクトリウスって凄いイケメン。
アントニウスと同じ金髪なんだけど、奴みたいにボサボサな感じじゃなくて、なんかナチュラルに王子様ヘアーっぽい感じだしな。
瞳の感じも女の子が見たら、くらくらきそうな、そういうパワーがある。
神殿警備のお手伝いかあ。
ちょっと怪しい。
もしかして、キャセルの奴もこの王子様っぽい方に熱を上げているとか。
さすがに、ちょっと無理目じゃない?
ライバルが凄く多そう。
まあ弟の方なら、なんとか目が無い事もないかもしれんのだが。
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