嘘偽りなき嘘
各人属性の確認が終わり、予定通り座学に戻った。そして今は魔法についての説明がなされている。
「ーー魔法というのは周囲に漂う魔素をを取り込み、体を流れる魔力を体外へ放出することで発動できる。因みに魔力は魔法を使うたびに体から抜けていき、それを魔素で回復するんだ」
分からないことだらけの内容に、常盤がヴィクタに質問をする。
「あの、ヴィクタさん」
「どうした常盤?」
「魔力の放出するってのはまぁこれから教えてもらえるんでしょうから置いとくとして、魔素ってどうやって取り込むんですか? あと、魔力が切れたらどうなります?」
「まず魔素だが、これは勝手に入ってくる。体の穴や口などからな。自分から取り込もうというのは出来ないんだ。そして魔力が尽きた時だが、これは魔力欠乏症になってしまうんだ」
そもそも欠乏症というのを知らない濱崎が手を上げ質問をする。
「ねぇ、そもそも欠乏症? ってなに?」
「欠乏症というのは……まぁ要するに空になる、みたいなことだと思ってくれ。体の中の魔力が空になることで痙攣を起こし、目が虚になってくる。とにかく体が動かなくなるんだ。これが魔力欠乏症の基本的な例だな。因みに別名魔力切れ、とも言われる」
ザ・テンプレ的な展開に神囿、そして奥田も少しテンションが上がっていた。
「(魔力が切れるかもしれないギリギリまで戦う主人公! いい!カッコいいじゃないか!)」
「では話を続けよう。まずお前たち覚えて欲しい技術、そして知識は3つ。まずは今説明した魔力と魔素の事前知識。これがないと馬鹿みたいに魔法を放ってすぐに魔力が切れる」
ヴィクタはもう一本指を立てた。
「そして2つ目、魔力操作のやり方だ。これは基本実習という形になる。そして3つ目、勇者に備わっているユニーク魔法の習得だ。正直これに関しては私も使えないのでな、教えられることはほとんどないと思う」
「え? じゃああたし達自分で身につけろってことですか?」
霞のこの質問に、少し困ったような表情を浮かべるヴィクタ。
「……私もできる限りは教えるつもりだ。だがいかんせん使えないからな、コツも何もないんだ。ただ伝承では意識を集中させることで自身の魔法が答えてくれると言われている」
その発言に、すでにユニーク魔法を使用したことのある永守は疑問を生じさせる。
「(意識を集中? 魔法が答える? なにそれ、芽衣そんなことしたっけ? 確か「変われ〜!」ってすごい思ってただけだったような)」
永守は少し思考する。自身がユニーク魔法を使えたことは彼女は言うつもりがない。だが、早く魔王を討伐してもらうには習得の仕方を教えた方が速いのではないか?と。考えた末、彼女は1人の男を利用することに決めた。
「ねぇねぇ
彼女は神囿を利用することにした。
「えっ? あ、そう……ですね、ステータスで見れたり、それがないなら……危機的状況に追い込まれる……とかですかね?」
「(危機的状況……確かにあれば芽衣にとってもそうだった。)じゃあ危機的状況での強い思い、とかで発現するってことなんですかね?」
「あ、はい! そういうのが多いです!」
完全に口調が戻っている神囿だが、永守の計略通りに見事事を運んだ。
「危機的状況、強い思い、か。……よし、お前たちの今後のカリキュラムを決定した」
ヴィクタは神囿の言葉を受け、勇者達を教育方針を決定したようだ。何を言われるのかと不安と興味半々で視線をヴィクタに移動させる。
「まずはユニーク魔法の件を放置する。そしてとりあえず当面は属性魔法を使い、それなりに戦えるようになってもらいたい」
「基本からゆっくりってことか? まぁおれたちからしてもその方が楽ではあるが」
真鍋のこの疑問に、ヴィクタは首を横に振る。
「いや、そういうわけではない。もし仮にユニーク魔法の発動条件が危機的状況での強い思いなのだとすれば、モンスターを討伐しにいくのが一番早いと思ってな。命の取り合いであれば否が応でもそういう状況と気持ちになるだろう」
「スパルタだっちゃな!」
「アレスちょっとうるせぇよ。んで、そのモンスターに負けて死なないために最低限の力はつけようぜってことか?」
またもや謎テンションなアレックスを制止し質問をする淺岡。
「ああ、そういうことだ。流石に抵抗する力もないのにモンスターと戦わせるわけにはいかないからな」
とここで、この一連の流れに常盤が疑問を投げかける。
「あの、そもそもモンスターってどんなのですか? 危険なのって魔王だけなんじゃ」
「いや、今堂々と人間滅亡宣言をしている魔王が目立っているだけで、ゴブリンやオークなど、そういったモンスターは沢山いる。奴らは人里を襲ったりするから、魔王とはまた別に恐れられているんだ」
なるほど。と常盤含め数名は納得していると、濱崎は1人ぽかんとしていた。
「ゴブリン屋オークション?」
「ゴブンリンやオークだ。ションってどっから出てきたよ。簡単に言えば醜悪な姿をした怪物と人型の豚、って感じだな」
常盤のこの説明に、露骨に顔を歪める濱崎。
「人型の豚……マジキモいんですけど」
「ま、まぁ確か(今までファンタジー作品的なイメージが頭にあったが、その先行イメージがなければ本当に気持ち悪いだろうな)」
常盤が妙な納得をしたところで、ヴィクタが話を戻した。
「まぁとにかくだ! お前達には最低限その雑魚モンスターを倒せるだけの力をつけてもらいたい。これはユニーク魔法や魔王討伐のためでも勿論あるが、自衛のためにもこれくらいは力があった方がいい」
それから1時間、彼らの自習は続き、ようやく終わる頃には数人がダウンしていた。
「…………ダリぃ」
「勇、霞、おれはもうダメだ……あとは……まか、せた」
「海斗く〜ん!!」
「勉強で死ぬって……死因なんて書かれるんだ?」
「もうダメ……うちもう勉強したくない……ヴィクタ怖い」
「寝てるとめちゃめちゃキレるしな」
「それな! でがんす!」
「今はまじで黙っててくれよアレス」
そんなだらけきった様子を見たヴィクタは、叱責を飛ばす。
「おいお前たち! そんなことでどうする?たかが座学でそうなっていては魔法の訓練ではどうなるんだ?」
「まだ魔法の特訓の方がいいって〜。動いてる方が楽しいし」
「……はぁ、全く。……まぁいい、この後食堂で食事がある。今日はゆっくり休みなさい、ではまた明日から一緒に頑張ろう」
「「は〜い」」
座学の授業が終わり、それぞれに食堂に向かって歩いていく一同。王の間に連れて行った召使がやってきて彼らを案内した。
「……ったく、あいつらは忍耐が足りんな。まぁ平和な国から来たようだし無理もないが……ふっ、教師というのは案外退屈しないな」
そしてヴィクタは食堂へは向かわず、王の間へと足を運んだ。
「ーー失礼します」
その部屋には王、そして王女が在室していた。
「ん? おお、ヴィクタか。……で、あやつらはどうだ?」
王のその質問に、ヴィクタは正直に答える。
「生意気で、話を聞かない時もありますが、基本的にはいい子達ばかりです。それに、全員属性が判明しました」
「なにっ?! 属性じゃと?! もう魔力操作ができたのか?」
王は驚きのあまり王座から身を乗り出し、あまつさえ転倒しそうになった。
「お父様気をつけて。ーーで、属性がわかったっていうのは本当?まだ2日目なのに」
「ええ、本当です。しかし魔力操作が出来ているという訳ではなく、その……触ったら光りました」
「なるほど……それは興味深いですね」
そう言った王女だったが、実のところ理由は分かっている。それもそうだろう、魔人と同じ体で転移させることを提案し、実行したのは紛れもなく彼女なのだから。
「まぁ、順調なのは良いことです。これからもお願いね、ヴィクタ」
「はっ。……して、あの件はあれから進展はありましたか?」
「
「……はい」
勇者召喚の生贄にされた副団長含む騎士団30名余り。彼らの末路を当然ながらヴィクタは知らされておらず、どころか彼は急に失踪した、ということになっている。
「安心してヴィクタ、今必死に捜索をしています。それにーーいずれ会えますから!」
王女の本心からの言葉。その意味に相違があったとしても、本音を言っているかどうか、というレベルの判断に限ってはその相違などないようなものだ。
「(この人は……嘘はついてはいなそうだな)……お願いいたします。では、失礼します」
期待半分、団員への心配半分を背負ったまま、彼女は食堂へと向かっていった。
「ええ、いずれ会えますとも。少なくとも、80年以内にはーーね」
王女の浮かべるその笑みの意味を、ヴィクタは知る由もない。
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