盲信
聖騎士団長ヴィクタとの距離が縮まった勇者達。そして今から魔王討伐、または自衛のための力をつけるために魔法について勉強をすることになった。
「え〜! うちら異世界に来てまで勉強〜? マジガン萎え」
「悪いが我慢してくれ。知識がないと使えるものも使えない。もし碌な知識もなく魔法を使ったらどうなるか……分かるか
「えぇ〜……スカるとか?」
「スカ? ……まぁいいや、魔法を知識なく使うと、魔力が暴走し……手足が吹き飛ぶ可能性がある」
「ひぃ! うちそんなん嫌だ! はやく、はやく教えてヴィクタ!」
自身の手足が吹き飛ぶ姿をイメージしたのか、若干涙目で教えを乞う濱崎。その姿を見て、こちらも若干勝ち誇った顔をするヴィクタにだった。
「では教えよう。まず魔法とは体の内側にある魔力の流れをコントロールし、体外に放出することで発動できる。因みにその魔力は空気中の魔素を取り込むことで回復できる。そしてそんな魔法には火、水、土、雷、風、光、闇の7種類があり、一人一人得意な属性が違うんだ。そしてそれを判別するのが──」
「もしかして水晶!!」
声を突然あげたのは
「ほう、そっちにもあるのか魔水晶」
勘違いしているヴィクタに、霞が訂正を加える。
「ヴィクタさん、確かに水晶はあるけど、魔水晶ってのはないよ。神囿くんがそういうの詳しいだけで」
「確かに其方はこの手のものに詳しいでござるな!」
「アレスまた言葉おかしいぞ」
おかしな言葉遣いのアレックスに、彼をアレスと呼ぶ
「……でえっと、その魔水晶って、ぼくたちすぐにでも触れるんですか?」
そう質問したのは魔王と戦いたくない組の
「まぁ一応現物を見せた方がいいかと思ってな、持ってきてはいるよ。まぁ触るだけなら構わないが、属性判別は魔力を操作出来ないと無理だぞ」
「それでもいいよ! 触らせてくれ!」
神囿はよほどテンションが上がっているのか、この世界に来て作っていたキャラが壊れてきている。
「あ、ああ……そんなに言うなら構わないが。そうだな、じゃあまずは……
突然指名された常盤は、戸惑いながらもこれを了承し前に出た。台に置かれた水晶を見ると、そこには何やら絵のようなものが書いてあった。
「あの、これってなんですか? この絵」
「それは魔法陣だよ。人間は先ほど言った属性魔法しか魔法は使えない。だが例外として物に魔法陣を描き、贄を捧ぐことで特定の魔法が付与される、と言われている。私は実際に見たことがないので真偽は不明だがな」
「贄……それって」
「ん? 家畜とかだろ?まぁ残酷ではあるが仕方がない。いちいち気にしていては食うこともできん」
平然と答えるヴィクタ。常盤はジェネレーションギャップならぬワールドギャップを感じた。
「因みに魔法が付与されているから魔水晶。これは判別用の魔水晶だが、遠隔通信用の魔水晶もある。――おっと、話が逸れたな。すまない、早速触ってみてくれ」
「はい、分かりました」
常盤は水晶に手を乗せた。勿論何かあるとは思っていない。先ほどヴィクタからも魔力操作が出来ないと何も起こらないと聞いていたからだ。
──案の定何もない。「だよな」そう思いながら手を離そうとした瞬間、水晶の中で紫色の光が灯った。
「ん?」
「……えっ? 灯ってる?! 魔力操作なんて教えてないのに! 嘘、故障? 何で……? 壊れてたら幾らだろ?」
困惑しているヴィクタ。何が起こったのかとオロオロしている。
「あの……やっぱおかしいんですか?」
「おかしいに決まってるだろ! 魔力操作も出来ないのに灯るはずがないんだ!──あっ……すまない、取り乱した」
その様子を見て
「やべぇ、オロオロ騎士って良いんだな」
「なるほど、ギャップ萌えというのが今まで理解できなかったが……こういうことか」
「イイネ!」
そして
「すっご〜いっ! 普通あり得ないことをやってのけたんですよね! もしかして天才なんじゃ?!」
「チッ!」
「別にそんなのじゃないと思うけど……他の人もやってみてくれないか? 俺1人じゃ判断できないし。どうですかヴィクタさん?」
「えっ? あ、そうだな。じゃあ次は──」
「僕だ! 僕がいく!」
そう言って名乗りをあげたのは神囿。何やらその表情には常盤に対する苛立ちが感じられた。
「じゃあ神囿、やってみてくれ」
水晶に向かい歩いていく神囿。常盤の真横に着いた時ら小さな声でこう呟いた。
「あんまり調子乗るなよ、僕の方がすごいんだ」
「へっ? 何のこと?」
彼は今、本来自分がすごいともてはやされる未来を常盤に奪われたと思っている。すごいのは自分、特別なのは自分、そして、永守に褒められるのは自分だと信じているのだ。そんな盲信を邪魔した常盤に理不尽な怒りを覚えている。
常盤は戻る途中、思い出したように振り返り、ヴィクタに尋ねた。
「あ、そういえば俺の属性って何だったんですか?」
「紫は闇だな。7属性の中では比較的レアな部類だ。と言っても光に比べれば全然だが」
「なるほど、ありがとうございます」
そう言って戻っていく常盤。その背後ではとある願望をしている男が1人いた。
「(絶対に光! 絶対に光! そうじゃなければせめて闇だ! 最低限あいつと同じじゃないと……そうじゃなきゃ芽衣ちゃんが取られちゃう!)……いくぞ」
彼なりの覚悟を決め、いざ水晶に触れる。結果を祈るように目を閉じる。そして目を開けた時、そこには光が灯っていた。──緑色の光だった。
「み……緑? 緑って……光属性?」
「いや、緑は雷だ。にしても神囿も反応するとは……やっぱり壊れてるのかな? 魔道具が壊れるなんて聞いたことないのにぃ……」
再び困惑しているヴィクタ。対して神囿は困惑、疑念、不安、苛立ち、焦りなどのさまざまな感情が反芻し続けていた。
「(何で……何で僕じゃないんだ! 何で僕じゃなくてあんな奴が! ──ッ! 芽衣ちゃん!)」
神囿は縋るように永守に顔を向ける。すると──
「わー、神囿くんすごーい」
抑揚がない。目も笑っていない。拍手も乾いている。永守が彼を見限るのは誰が見ても明らかだろう。だが、この男だけは違った。
「(良かった〜!! 芽衣ちゃん褒めてくれてる! 良かったぁ! 芽衣ちゃんに感謝しろよ常盤、本当だったらお前に復讐してたんだからな!)」
神囿はこんな簡単なことすら気づかないほどに彼女に盲信していたのだ。他人からすれば哀れに映るだろう。しかし彼は幸せなのだ。
「にしても2人も反応するなんて……これが勇者というものなのか?」
ヴィクタは気づいていない。というよりも知らないのだ。勇者達が王女によって魔族と同じく魔素の塊にされているということに。魔素の塊ということはつまり魔力の塊ということでもある。ということは水晶に触れただけで反応するのだ。
「ああもう! こうなったら全員確かめるぞ! もし誤作動だったら……それはそれだ」
こうして勇者たちは全員属性を調べることとなった。
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