第4話 被妊娠マーカー

「おい、結城さぁー。結局昨日はお持ち帰りしたのか?」

「う、うん。まあな」

「昨日の明美、べろんべろんによっぱらってたけど。お前ちゃんとヤレたのかよ」

「えへへ。実はさ、俺も明美もあのまま二人でアパートに付いたら意識無くしちゃってさー。俺、全然覚えてないんだよな」

「なんだよそれー! あんなに明美とヤリたいって騒いでいたのに。結局戦果を挙げる前に轟沈したのかよー」


 そんな話を真昼間大きな声でするんじゃねぇよ――オレは生協の学生食堂で昨日の飲み会で知り合った彼女とヤッたヤラないの馬鹿話をしている学友の話を聞かされていた。

 時間にうるさい教授に、今日中に仕上げて提出しなくちゃいけないレポートが終わってないオレとしては、そんな男と女の話なんか聞いている場合ではないんだ。


「そう言えば卓也は昨日の飲み会をパスしたのか?」


 オレは学友の中で一番女グゼが悪い卓也が最近学内に見えない事に気が付いて健司に聞く。


「あー卓也かー。あいつヘマしちまってよー、女子大の女を孕ませちまったんだ。だからあいつ今学校に来れないのさ。もしもあいつと街中で会ったら右手の小指を見てみろよ。『私は女性を妊娠させました』っていう証の例のリングが出てるぜ」


 結婚している成人男性がそのパートナーの女性を妊娠させて、男性用妊娠マーカーである『被妊娠マーカー』あるいは『被経産婦マーカー』が体の何処かに現れた場合は幸せなんだろうなぁ。


 それはまあ、男女平等って意味では女性が妊娠して妊娠マーカーが発生したら男性だって被妊娠マーカーが発生するのは正しい状態だとは思う。


 でも、親のすねをかじって学生している身分としては女性を妊娠させて面倒を見るなどという事は、100%不可能なわけで。でも、若くて健康な男性と女性がセックスしたら普通は妊娠しちまうけどそれって悪い事なのか? だから、『大学生なのに被妊娠マーカーを持っているヤツは学生として許されない』という正義の剣を振り回しているヤツにはちょっとムカっとするんだ。


 噂では、妊娠マーカーも被妊娠マーカーも、ある研究所の天才的な博士が作ったらしいけど。お願いだから学生や未婚の男性には被妊娠マーカーを生成するウイルスの不活性化ワクチンを恵んで欲しいよな――

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