第41話 初音燦な妹ですが、どうしようかな

「……姉ぇばかりズルい」


 日曜日。

 朝起きたら姉ぇは既に朝御飯の準備をしていた。

 とりあえず、夜の不満をぶつけておく。


「そりゃ、私が一番ですし?

 妹じゃなきゃ、叩き出すところよ。

 それに狭すぎて挿入出来ないは自業自得よね?」

「うぅ……」


 言われ、恥ずかしい気持ちが沸いてくる。私は女として未熟だ……。


「つい最近、オナニー覚えたばかりのおぼこだし、しどー君のデカいし、まぁ……。

 良かったわね、ホテルに入らなくて。

 ホテルで意気揚々としたところにそれだったらトラウマ!」

「……既に自己嫌悪の塊」


 眼鏡を外してテーブルに突っ伏し、震えてしまう。

 泣きたい。


「それですんだのなら御の字。

 ゆっくりそっちも慣らしていくしかないんじゃないかと、姉ぇは思う訳ですよ」


 何でこんな流れになったかと言うと、


「姉ぇがそもそも私が居るのに始めたのが悪いんじゃないの!

 私も居るのに!」


 二度繰り返しでの強調で抗議。

 ちなみにパパママには姉ぇの所に泊まると言ってある。嘘ではない。


「だってー、だってー、むらむらしちゃったんだもん。

 妹に寝取られる未来があったかと想像したら……ねえ?

 人間、失う可能性とか恐怖とかで相手の存在を再確認する時が一番たぎるのかもしれんね?

 本当に寝取られるのは、イヤだけど」


 私をダシにしやがってこのビッチが……!

 いきどおりを覚えるモノの、


「そもそも私としどーくんの部屋で、まーたやっているのを覗き見したのが悪いのよ。

 この前みたいに、クチャクチャ楽しそうに自分の弄ってさぁ……。

 誘ったら誘ったでいきなり、しどー君にキスだもの。

 胸は使うし、揉んでとせがむし。

 私の妹ながら処女なのに、淫乱妹で才能があるわよ、まったく!」


 自分が暴走した結果なので、何も言えなくなる。

 抑えきれなくなったのだ。自分の感情、女である部分が。

 あんまり姉ぇのことは言えない、そう自覚しているから頭をテーブルに突っ伏して赤くなった顔を隠すだけだ。


「しどー君じゃなきゃ、無理にぶち込まれて痛い、いたーい、初体験だったかもね。

 最悪、裂けて使い物にならなくなるとか、怖い怖い」

「そんなことあるの……?」

「あるわよ」


 姉ぇが脅すように言ってくる。


「……しかし、よく据え膳とめたわ、ウチの彼氏ながら思うわ。

 その分、私がぶちこまれたけど……フフフ。

 ゴム使い切ったし……。

 ……まぁ、あんたはゆっくり慣らしていけばいいのよ。

 それも含めてお試し期間よね」

「お試し期間て……」

「そりゃそうでしょ。

 体だけ繋がっても、結局は気持ちいいだけよ?

 幸せになれる訳じゃないの。

 それがゴールじゃないの」


 姉ぇは続ける。


「だって、それ以降も続くし、そこで終わりじゃない。

 気持ちは変わるかもしれない。

 そりゃそうよね、人間成長するし、環境も変わる。

 同じであり続けることなんか、絶対、出来ない。

 けれども、最新の私を愛してもらう努力は出来るから、まだまだ私自身も途中な訳よ」


 姉ぇがそうほほ笑む、何というか大人の表情だ。

 何年も後ろを追い続け、追いつける気がしないまま、背中ばかり見ている気がする。


「姉ぇが難しい事言ってる……」

「にゃにをー!

 あんたなんかより数倍は経験豊富なんだからって零は何をかけても変わらないか。

 ぷぷー、やーい処女ビッチ妹!」


 ウリウリと抱き着かれ、頭を撫でられる。

 

「じゃぁ、私が姉ぇを差し置いて一番になる未来もあるよね?」

「ないわよ、ないない。

 一番になるのは許さない。

 とはいえ、しどー君がどう思うかだからそう成れるように努力するのはありだと思うけどねー?

 私はちゃんと努力してますし-。

 相手に期待するなら先ずは期待できる程、自分でやらなきゃ」


 余裕なのだろうか。

 子ども扱いされてる気がする。


「まぁ、妹の場合、先ずは身体でも何でも使って、しどー君の心を引き留めることよね。

 魅力を伝えなきゃ。

 考えるって言ってくれたんだから、そうしてくれるのは間違いない。

 私のしどー君はそういう人。

 妹の誠一君もそういう人でしょ?」

「……うん」


 とはいえ、何だかんだ、面倒見のいい姉ぇだ。

 ちゃんと指針を見定めてくれる。


「でも、本当にいいの?」


 インモラルのは確かで、結局は私の横恋慕だ。

 ずるい女の私がなりを潜めている今は、表に出てくるのは真面目な私で当然、道徳とかがのし掛かってくる。


「何、暗い顔してんのよ。

 別に私は妹ならいいからね。

 そう決めたの。

 昨日、あんたが考えた通りビッチな姉ぇに二言は無いのよ」


 長い間、姉妹をやっているからか思考を読まれた。

 安心させたいのか、抱き着く力が強くなってくれる。


「結局は、私達がどうしたいかなんだからね?」

「……ありがと」

「よろし!」


 何だかんだ、私に甘く、私の事をよく考えてくれる姉だ。

 今回の事で、それは良く判った。

 害意や敵意なんか感じたのは私の被害妄想で、結局、姉ぇは姉ぇなのだ。


「でも、付き合わないって言われたらすっぱり諦めなよ?」

「うー……それは考えたくない」

「その上で自暴自棄でしどー君に迷惑をかけたら、家族の縁を切るわよ?」


 そう釘を刺された。

 それは深く抉るような痛みが伴った。

 姉ぇと他人になるのはイヤだな、そう確かに思えたからだ。


「とはいえ、妹よ。

 色々あったけど、改めて宜しく。

 恋敵として、妹として……棒姉妹(予定)として」

「棒姉妹?」

「同じ棒に貫かれた女性同士のことよ。

 つまり同じ男の女や彼女よね」


 私から離れた姉ぇがコーヒーをいれたマグカップを差し出してくる。


「最後はどうかと思うけど……」


 私はそれを持ち、


「姉ぇ、よろしく」


 姉ぇが自身で持っていたマグカップにコツンと当てた。

 そして二人で笑いあう。

 ちゃんと和解出来たことは嬉しいし、私だって姉ぇと喧嘩なんぞはしたくないのだ。


「おはよう、初音と初音さん……って呼びづらいな」


 寝ぼけ頭なメガネの誠一さんが出てくる。

 頭もボサボサで、カッコよさなんかは何処にもない。

 けれども、そんな彼も可愛いと思えた。

 ギャップ萌えというやつなのだろうか。


「いい加減、名前で呼び合う?

 誠一さん♪ って」

「初音は初音としかなぁ……前も言ったが」


 そんな彼にコーヒーを差し出す姉ぇは慣れた手つきだ。

 羨ましい。


「まぁ、判らなくはないけど。

 私も呼びづらいし。

 そしたら、妹の事、名前で呼んであげたら?」

「姉ぇ、それは……」

「いいのいいの。

 私はしどー君で、妹は誠一さんでしょ?」


 姉ぇがウィンクしてくる。

 名前呼びを繰り返せば、脳裏に親密さは刷り込まれていく。

 つまりアシストしてくれているのだ。


「といっても、この子、サンちゃんなんだけどね。

 初音さん、ふふ、お笑いね」


 だから、初音さん呼ばわりが私は通例なのだ。逆に私といると姉ぇはあるあだ名で呼ばれたことが多かった。今はその反動でその呼び方をするとキレる。


「……そうだったのか」

「ちなみに漢字は燦」


 っと、姉ぇは誠一さんに抱き着きながら携帯で文字を見せる。


「鮮やかな輝きだっけか、文字の意味。

 良い名前だ」


 突然に良い名前だと唐突に言われ、ハンマーで頭を殴られたかのような衝撃を受け、うろたえる私。

 この人、ホントずるい。


「よく知ってるわね、流石、マジメガネ」

「初音の名前は意味が良く判らないんだけどな。

 すまない」

「私も知らないから気にしなくていいわよー。

 なんか、ママ側のしきたりとかなんとか」


 確かに、姉の名前の由来は良く判らない。

 ちなみにミクとも読めるが、それを言うと、姉はキレる。

 とはいえ、


「誠一さん」

「なにかな」

「大好きです。

 惚れさせますし、覚悟してくださいね」


 ちゃんと宣言しておくことにする。

 すると誠一さんは驚いたように、眼を見開いて私を観てくる。

 私はそんな彼に嬉しくなってしまう。

 最低だって、真面目だって、どんな私でも誠一さんが好きな気持ちに変わりはないのだ。


「……手加減を頼みたいんだけど?」

「嫌です♪」


 私はそう言うと、とびっきりに微笑んだ。

 攻める時は攻めろとは姉ぇの言葉だ。

 誠一さんは困った顔を浮かべたが、嬉しそうにも見えた。


―――――――—―――――――—―――――――—―――――――—

二章のあとがき


 こうした姉妹の物語ですが、もうちょっと続くんじゃ。


 妹が怖い方やこれからの三人が気になる方、応援してやってもいい方、ビビッときた方はフォローボタンや★ボタンで応援頂けると嬉しいです!


よろしくお願いいたします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る