第30話 彼氏に浮気を勧めますが、なにか?

 私としどー君、二人で食卓に座り、歓談をしている最中に、


「浮気者」


 と意地悪く言ってやると、しどー君は驚いた顔を浮かべてきた。

 心外だとも、心当たりが無いとも言いたげに見える。


「何の話だ、初音。

 行きつけの珈琲豆屋の女性店員にまたオマケして貰ったことか?

 手を触ってきてやたら馴れ馴れしいが特に何もないぞ?」


 ちょっと待て。


「何それ、ぶっ殺すわよ……っと、それは後で聞くわね?

 妹よ、妹!

 唾をつけたたらしいじゃないの。

 私だけじゃ飽き足らず、よよよよよ。

 特盛美人姉妹丼やサンドイッチでも狙ってるつもり⁈」

「最後の単語の意味がよく分からんが、痴漢から助けただけだぞ?

 特に僕は何もしていない」

「知ってる。

 からかっただけよ」


 という訳で、とりあえず、しどー君が妹を助けた本人だということが確定した。

 しどー君も私の物言いが、冗談だということに気付いて、安心して一息入れている。

 但し、女性店員の件は後で詰める。しどー君の下半身に聞くのもありかもしれんね?


「でね妹がね、しどー君の変身後の姿に惚れてエッチしたいんだってさ。

 私もびっくりな処女ビッチ具合に大変身よ。

 責任取りなさいよー?」

「ぶっ……それも冗談だろ?」


 味噌汁を飲んでいる時に言ってやった。

 涙目でムセている。

 これぐらいは許される。


「これはマジ話。

 オナニーも、しどー君の名前呼びながら切なげに声をおし殺しながらね。

 モテモテで嬉しかろう、しどー君」


 ちなみに今日の献立は和食だ。

 豆腐のお味噌汁、自家製ピクルス、肉じゃが、ご飯。

 そして最後デザートに私も食べてもらう予定である。

 さておき、


「ちなみに私のしどー君と変身後の誠一君は、妹の中では別人二十八号」

「……合点がいった。

 だから、名前を聞いてきた訳か」

「それで苗字だと思わず、下の名前を名乗る誠一・・君も相当な天然よね」


 意地悪い笑みを浮かべて名前で呼んでやる。

 しどー君の口元がバッテンになるのでしてやったりだ。


「手厳しいな。

 とはいえ、僕は初音以外と付き合う気も関係を持つ気もないぞ?」

「そう答えると思ったわよ。

 もし、しどー君から、妹も抱くかとか言ったら、ちょっと殴り飛ばして、その後、ベッドで私を教え込むところだったわ。

 命拾いしたわね!」

「初音の体は隅々まで知ってるけどな。

 最近、後ろも二本迄……」

「恥ずかしい台詞ぅ……」


 確かに、しどー君は私の体の隅々まで知っている。

 ほくろの数なんざ数えられてたことに気付いた日には、顔から火が出るかと思った。

 いや、それはそれでしどー君に愛されていると感じて嬉しかった訳で……私も相当、しどー君に入れ込んでる。


「こほん――でね、妹の初恋をだね。

 軟着陸させてあげたいわけですよ」

「良く判らん」


 まぁ、私のしどー君に女性の機微などを察することは期待していない。

 マジメガネだ。


「しどー君、痴漢から助けた時、妹の状態はどうだった?」

「初音以上に発情してたな、あれ……。

 鈍感な僕にも色香というのが見えて、エッチ前後の初音と見間違えるぐらいだった。

 危険だと、正直に感じた」


 私を良く知るしどー君から、それ以上という感想が出てきたのには流石に驚いた。

 予想以上にヤバい状態だったみたいだ。


「やっぱり成り掛けてたのね。

 痴漢で快楽堕ちとか、どこのレディコミよ……。

 いやまぁ、本人望んでればいいけど、性欲に任せたままにとか、自暴自棄はねぇ……」


 パパママも悲しむだろう。

 自分で意思を持って体を使ってた私で泣かれたのだ。

 真面目な妹がそんなことになったら、パパがショック死しかねない。


「というわけで、妹と付き合ってあげて?

 一発、二発ぐらい、男性教えてあげても良いから」

「何を言ってるんだ、初音は……お前と別れる気はないぞ?」

「別れるなんて言ってないわよ……、しどー君がそうしたいならするけど」


 あ、やばい。

 泣きそう。

 仮定の話でもそう言ったら、心ががっつりと抉れた。

 いつもしどー君には身軽でいて欲しいと考えているのに、これだ。

 弱くなったもんだ。


「別れないからな?」

「うん……ありがと♪」


 私が欲しい言葉をちゃんとしてくれるしどー君は本当によい彼氏だ。

 食事中で無ければ、襲ってた。


「さておき、浮気、あるいは二股しろってことよ」

「……頭大丈夫か?」


 流石に正気を疑われる。

 マジメガネがスンナリと受け入れる訳が当然として無い。


「これはね、しどー君にも女性の機微を学んで欲しいの。

 妹には悪いけど、今回を教育教材になって貰うことにしている側面もあるの」


 ビシィ! っと人差し指を向けてやる。

 しどー君が私の事を、何言ってんだこいつという目線で呆れてくれる。

 ゾクゾクしてくる私は少しヘンタイなのかもしれない。


「つまり、上手いこと振れ。

 今後、私以外に好意を持たれた場合に、後腐れを起こさないことを学ぶの、いい?

 女性の仕草を観察して、学んで試行錯誤しなさいってこと」

「……判った」


 不承不承ふしょうぶしょうという感じだ。

 そらそうだ、しどー君は曲がったことが基本嫌いだ。

 とはいえ、反対しないのは、それが必要だと信じてくれているからだろう。

 しどー君が悲しそうな顔で申し訳なくなるし、抱きしめたくなる。

 本当に私は幸せ者であるなと噛みしめつつ、言う。


「で、ここからが本題。

 妹の為でもあるの」

「聞こう」


 しどー君が私の真剣な眼差しに、真剣な眼差しで返してくれる。


「私と一緒よ。

 もし、変な方に転がったら、自暴自棄になってヤリマンとか、サセコとか、そっちになる可能性があるわけね」

「……それは同意できるかな。

 あのままなら間違いなく、連れ込まれてた。

 それが再び起きることも想像にかたくない」

「自分で判断出来ない状態で、転がり落ちて欲しくないの。

 私がしどー君に会わなかったら間違えた道を転がり落ちてた筈だから特に、そう思うの!」


 私も一歩間違えれば、ここにはいなかった。

 それは確信している。

 男をむさぼるだけならまだマシだ、快楽堕ちしたり、育てられない妊娠したり、下手すれば自殺していた可能性すら最近は想像してしまうことがある。

 今が幸せ過ぎすぎて、無かった未来がネガティブに感じるのだ。

 そしてそれは根っこが同じ妹も一歩間違えれば、そのルートに入る。私より運が悪い妹なら間違いない。

 それはイヤだ。


「……初音はいいのか?」

「嫉妬はあるわよ?

 それに妹で無ければこんなことは言わない。

 出来ればしないで欲しいし、しない努力はしろとあえて言う。

 でもね、私の妹なの。

 だから、協力して! お願い!

 あの子は私の大切な妹なの!

 ちゃんと向き合って、問題ない様にいい思い出にしてあげて!」


 私は言葉を感情のまま紡ぎ、言い切って、机に頭を押し付ける。


「人生を左右するとか責任重すぎないか?

 ただ、初音に、彼女にそこまで頼られたんだ。

 嬉しく思う」


 見上げれば、私の時のように、熱意を持った目をしている。

 こういう押しつけがましくもなる正しい正義感に燃えるのが、しどー君であり、私がここに居る原因になった彼だ。

 それが変わっていないことは、正直、嬉しい。


「妹思いなのは伝わった。

 判った、なるべく柔らかく振るように頑張ろう。

 だが、初音」


 私の事を真摯な目線で見てくれて、


「絶対わかれないからな」

「この彼氏、ビッチ喜ばせてどーすんだか……。

 でも……ありがと、うん、しどー君で良かった。

 お願いね。

 サービスはするから!」


 明日は日曜日だ。

 二日連荘だが、頑張った。

 尚、私が妹になり切ったシチュエーションプレイはそれなりにしどー君の背徳感を虐めることが出来たので楽しかった。

 さすがに後で怒られたが。

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