第3話 マジメガネの家ですが、なにか?

「ふあー、夜景がきれー」


 とりあえず、現状を満喫することにした私であった。

 バルコニーから見た景色に感嘆の声が上がるぐらいには凄かった。

 京都市内がキラキラ輝いて見える。


「で、士道君、ここに一人で住んでんの?」

「あぁ、そうだ。

 ハウスキーパーで人は入るけど」


 マジメガネの苗字が『士道』ということはマンションの表札で初めて知った。

 そこは西大路通沿い二条から三条のマンションだった。

 確かに億ションとかではないが、ちょっと高そうな調度品が置かれている辺り、おぼっちゃまなのが確信できた。

 というか、私の家より一室が広い。


「お金があるところにはあるモノね!

 格差を感じざる得ないわ、チクショウ……。

 とはいえ、大文字も見えるよね、ここ」

「ここからなら、大文字の送り火の舟。

 反対側、道路側の窓からは大文字も見える。

 屋上もその日は解放されて、ほぼ全部が見渡される」

「うらやま!

 何度か見に来たことがあるが、混みまくっていた記憶しかないわ」


 正直、あの季節に京都市内は近づきたくない。

 暑いし。

 痴漢されたし。

 警察呼んだが。


「コーラとか、頂きますよー」

「ちゃんとお礼いうんだな……」

「そりゃ、義理高いビッチですし」


 コンビニでおごらせたコーラを開けて夜景をつまみに飲む。

 処女失えなかったけど、これはこれで得難い経験をしている気がする。

 気分が晴れてきた。

 そしてこれまた買わせたファミチキを食べる。

 リッチな気分だ。


「初音さん、先風呂入ってくれ。

 流石に男の後は入りたくないだろ?」

「べつに気を使わなくてもいいのにー、ありがとねー」


 っと、お風呂に案内される。


「そうだ、一緒に入る?」

「な、な、な、な」


 顔を真っ赤にする士道君。

 ニヤニヤと意地悪い私が心の中で沸いてくる。

 私自身、エス気は自認しているところだが、こう彼を見ていると大人ということでマウントを取りたくなる。

 お礼としてお風呂ぐらいなら入ってあげてもいいかもしれない。


「私は別にいいわよー。

 他の男の人と入ったこともあるし」


 あれ?

 反応が無い。

 顔を見れば、悲しそうな顔を彼がしていた。


「少しは自分を大切にしてあげたらどうだろう」


 彼の目は真剣だった。

 何というか、私が悪いみたいな罪悪感が沸いてくる。


「仕方ないでしょ、お金いるんだからー。

 手でやってあげるだけで、万貰えるんよ?」

 口だともっと。

 レンタル彼女だって最近はあるから気にしすぎよ」

「それでもだ」

「……冗談よ、冗談。

 マジメガネ、まじめねー。

 禿げるわよ?」


 気まずくなってしまった。

 だから、逃げるように、一人でお風呂に。

 広いお風呂だ。

鏡に映る私は茶色い毛のギャルだ。

 目元もパッチしており、自分ながら可愛いと思う。

 湯船はまるでホテルのように足を延ばせる。

 家のお風呂は狭いことこの上なく、足を折って入れる必要がある。

 追い炊きすらできない。

 そんな状況で今の学校に入れてくれた親には感謝ではあるのだが、とはいえ、お小遣いは無い。


「というか、泡ぶろの機械まであるじゃないの」

 

 体を洗い湯船へ。

 スイッチオン。

 ああああああああ、振動で体がほぐれていく。

 流石にシャンプーとか、石鹸は男物しかない。

 仕方ない話である。


「しっかし、ほんとマジメガネよね」


 思うのは、士道君のこと。

 今日は縁があってこんなことになっているが、クラスメイトとしては付き合いが薄い。

 私は女子のカーストの上で、彼は男子のオタク集団だ。

 接点何てあろう筈がない。

 成績は小テストとかの点数は良いらしい。


「入学試験の最優秀者を逃したのを悔しく歯噛みしていたのは、何でか覚えてるんだけどねー」


 評価の張り出している所で見たのは記憶している。

 だって、合格しただけで嬉しかった私の気分を見ただけで水を差されたからだろうと今は思う。

 まぁ、あの化け物とやりあおうという気概だけは褒めていいかもしれない。

 次の中間は勝つために頑張っているらしい。


「勉強だけがすべてじゃないってのにね」


 私?

 補欠合格(震え声)。

 一応、勉強はしているのだが人には不向きというモノがある。

 

「さて、学校にはチクられないと思うけど……」


 悩む。

 口止めをどうするか。

 策略だとかは頭回る方だけど、ちょっと想定外だ。


「うーん、身体で止めるかなー」


 こういう時は鍛えたテクニックで勝負である。

 というわけで、ドーンと、扉を開けて居間へ。


「あがったか……って、何で裸なんだよ!」

「私寝る時は裸だしー」

「せめてタオルまけ!」


 っと言われたので、タオルを巻いた格好で虐めることにした。


「ほらほら、女の子の裸だよー。

 うりうりー」

「や、やめろ」


 近づいて女の武器、胸元を押し付けてやる。

 私の胸は自慢できるほど、大きい。

 クラスでは二番目だが、男共は必ず揉みたがる。

 しかし士道君は赤面して手で私を遠ざけようとしてくる。

 くくく、初心よのぉ。

 私にとっては男に裸を見せることなんて慣れたもんよ。

 とはいえ、


「女の子に不慣れ過ぎない?」

「小中が男子校だったから……。

 その慣れてないんだ」

「箱入り娘ならぬ、箱入り息子というわけね……そうだ!

 私で女の子に慣れるってのはどう?

 学校には黙ってて貰う代わりに。

 いい考えでしょ?」


 私の中で名案だと思った。

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