第58話 月の裏

月の中にいる幻想を見ていた


テーブルを囲み、好きな人たちと楽しい時間を過ごしていた


次の瞬間、ハロウィンのゾンビたちがウヨウヨと彷徨う世界になった


どれもこれも僕の魂を寄越せと言った


必死で逃げて、逃げて、逃げたはずなのに


気づくとテーブルを抜けて、一人で泣いていた


テーブルの上の食事はぐちゃぐちゃ


全部錯乱した僕の仕業だった


沢山の白い視線が集まり、居た堪れなくなった僕は隠れるようテーブルを後にした


何をしてもうまくいかなかった僕に、どこからかやってきた白黒の猫が笑いかけた


それでいい、それが君だろ


僕は猫と歩いて月の反対側に住むことにした


月の裏には誰も来なかった


少しだけ華やかだったテーブルが恋しかったけど、猫との生活は安定していた


僕を包む猫たちの優しさに甘えていたら、家族がやってきて目を覚ませと言った


気づいたら僕は何もない箱に1人でいた


ずっと、1人だった


酷く、納得のいく世界


幻想はもう見えない


見ない 見えない 見ない





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