第36話 助けた記憶がある
「以上で生徒会の引継ぎ作業を終了します。不明な点は白鳥さんが把握しているので確認してください」
「はい。ありがとうございました」
無事に引継ぎも終わり、晴れて生徒会長に就任した。
「生徒会室って思っていたよりも、広くて驚いたよ」
「部活動や体育祭、文化祭の予算に運営委員など様々な会議が開かれますからね。これから山ほど仕事がやってまいりますわ」
「白鳥さん……笑顔で嬉しそうに怖いこと言わないでよ」
「あら?嬉しいですわ。だっていつも一緒にメモ―――」
「さーさーさー!新生徒会長様!挨拶をお願いします!」
「急に大きな声を出さないでくれよ。ビックリするだろ」
小悪魔の大声に白鳥さんの声が掻き消されてしまい、怪訝な顔をしている。
お前は卓球のあいちゃんか!?サー!
千花もなぜか小さくガッツポーズをしていた。
頼むからみんな仲良くしてくれ。
「固いのは苦手なのでひと言だけ。力を合わせて頑張ろう!」
「「「はーい!」」」
……僕以外は全員女子なので少し肩身は狭いけど、まじめで真っ直ぐだし一生懸命働いてくれそうだ。
あまりに熱心すぎて、さっきも役割分担を決めるのに生徒会長補佐を作るか誰にするか話し合いが行われたほどだ。
あの白鳥さんでさえ、いつもの冷静沈着な態度が一変して副会長が補佐するのが当たり前だと熱く主張していた。
すると千花が生徒会長補佐はあくまでも会社でいえば、秘書みたいにスケジュール管理など身の回りのお世話をするような役目の人間が必要ですともっともらしい意見を出して結局そのポストが新設された。
「それではわたくし【
立候補とその後の多数決で、前年度からもともと白鳥さんの元で生徒会活動を行っていた彼女が補佐役として僕の力になってくれるらしい。
ちなみに生徒会ハーレム発言をしたのも、早川さんだ。
「氷河先輩よろしくお願いします」
律儀に深々と頭を下げてくる彼女は小悪魔と同じ1年生だけど、眼鏡をかけているせいか短絡的に真面目な印象を受ける。
白鳥さんが妹のように可愛がっているうちのひとりで、ショートカットの髪も似合っていて落ち着いた雰囲気で顔も実際かわいいのにほとんど笑わない。
図書館で見かけるような真面目眼鏡っ子タイプだ。(どんなだよ?)
「早川さんだね。こちらこそよろしく」
挨拶しただけでみんなの視線がすごく痛い。
そこまで仕事熱心だと、将来ブラック企業に勤めてこき使われないか心配になってくる。
僕は印税暮らしでダメな人間にならないように気を付けよう。
間もなくホームルームが始まる時間なのでいったん解散し、細かいことは放課後に決めることにして各自教室に戻って行った。
「あのひとだかりはいったい何かしら?」
「なんだか騒がしいな」
千花とは同じクラスなので一緒に教室に戻っていく途中で、廊下にひとだかりが出来ている。
どうやら僕達の隣のクラスのようだ。
浩一は停学処分になっているので、登校していないはずだけどいったい……
「すいません生徒会です。もうすぐホームルームが始まりますので自分の教室に戻って席に着いてください」
人混みをかき分けて生徒達を誘導する。
波がサーっと引くように集まっていた生徒達が教室や自分の席へ戻っていくと……ブタが現れた。
推定体重100キロ以上、身長約180センチ、言語ブヒー……ではないと思う。
「生徒会長の初仕事ご苦労さん。氷河くんも教室に早く戻ったほうがいいだろう」
いつの間にか後ろには、このクラスの担任教師が立っている。
一礼してから千花と一緒に教室へと戻り自席に着いた。
あれはたしかにブタだった。
ただしイジメにあったから第3学習室で授業を受けていた話は間違いなく嘘だろう。
周りの生徒達が怯えて近寄ろうともしないし、ブタはニヤニヤしながら女生徒を眺めて気持ちが悪かった。
あの大きな態度がなによりの証拠だ。
僕とほんの一瞬だけ目が合うと怒りの眼差しを向けてきたけどすぐに目を逸らして平静を装っていた。
しかし僕の能力の前では、そんな誤魔化しなど一切通用するはずもなく記憶させてもらった。
「昨日第3学習室が火事で燃えてしまい不審火との噂が流れているようですが、現在も調査中ですのであまり他言しないように」
担任の先生から細かい説明はなく、家族にも推測で話をしないようにと付け加えられた。
第3学習室がなくなって檻がなくなったからブタのお出ましか。
もしかして学校側が檻に閉じ込めていたのでは……そんな考えが浮かんでくる。
大沢(兄)と兄弟かと疑うくらいの風貌はさすがに驚いてしまった。
ようやくのご対面だったけど、出来れば時間を巻き戻して忘れたいほどの醜い顔つきだ。
外見だけでなく内面から湧き出る卑しい心がより一層、気持ち悪く感じさせるのだろう。
人は心が顔に出るとはよく言ったものだ。
ブタが人前に出てきた事で最善の注意を払わなければいけない。
放課後に生徒会室に集まった際、みんなにも気を付けるように伝えておこう。
しかし……そう思った時にはすでに遅かった。
* * * *
「離してください!」
「や、やめてください!」
「いいから付いて来いって言ってんだろ!」
生徒会室の方から叫び声が聞こえてくる。
早速仕掛けてきたか!?
心配する千花には僕は大丈夫だからと伝え、念のため先生を呼んでくるように頼んで急いで生徒会室のドアを開けた。
中では他校の制服を着た金髪でガラの悪い男と、スキンヘッドで眉毛も剃っている男のふたりが白鳥さんの後輩2人の腕を掴んでいた。
こいつら……
今ではその二人も僕の大事な後輩だぞ。
「いったいどこから入ってきたのか知らないけど、部外者は立ち入り禁止だ。二人を離して早く出ていけ!」
「なんだお前は?ひょろひょろしてるてめーがどうにか出来るとでも思ってんのか?今なら見逃してやるからさっさと消えろ!こいつらは大事な貢物だからな」
恐怖で女の子二人が涙を流している。
もはや先生を待ってはいられない。
僕はゆっくりと距離を詰めていく。
「おらっ!ぶっ飛んじまいなー!」
金髪の右拳が、僕の顔面目掛けて飛んでくる!?
ドスン!
次の瞬間には金髪がくるりと回されて地面に倒されていた。
「い、いったいなにしやがった!」
スキンヘッドが驚いて固まってるけど、一緒に襲いかかって来ないのは都合がいい。
金髪の首を絞めてゆっくりと眠りについてもらった。
「氷河先輩殺したらまずいです!」
「失神しているだけだから大丈夫だよ。さあ彼女を離してもらおうか」
「まぐれが2度も続くと思うなよ!」
今度はスキンヘッドが体ごと飛び掛かってくるが―――
ドスン!
本人も呆気にとられるくらい綺麗にくるりと回されて、またも地面に倒される。
すかさず僕はスキンヘッドの首も絞めて落ちてもらった。
「君たちケガはない?」
「「だ、大丈夫です……」」
よほど怖かったのだろう、ビクビクといまだに震えがおさまっていないようだ。
ガラガラ!
ドアが開くと同時に僕は口を開いていた。
「怖い目に合わせてすまなかった」
「「せんぱーい!」」
「えっ!?」
「えっ!?」
僕に抱きつきながら泣きじゃくる二人の後輩。
そして背後には唖然としている白鳥さんと小悪魔がぽかんと口を開けたまま立っていた。
「えっ!?」
そこに寝てるふたりが原因だからー!!
生徒会長初日は波乱に満ち溢れていた。
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