第15話 ライブハウス【MUSIC of CRIME】~ありがとう~
小倉君のお姉さん静華さんの経営するライブハウス。
自分がいるVIPルームには、多分30人くらいしかいない。
静華さん曰く、会員制にして人数を抑えているらしい。
この部屋は、水族館の様な大きなガラス張りの向こうにステージが見える。
ライブハウスとしての臨場感や一体感は劣るが、その他のサービスで差別化を図っている。
ライブハウス全体を見下ろせる優越感が特別感を演出しいて大人のお客様向きに改装したらしい。
自分は、この部屋にいていいのだろうか。
チケット代も会員代も払ってはいない。
特別待遇過ぎてどうすれば・・。
なにより、場違い感がすごい・・・。
右を見れば高そうな時計と靴を履いた男性が・・。
左を見ればピカピカのバックにツヤツヤの爪の女性・・・・。
もう一度、自分の格好を見て冷や汗が出る・・・。
はぁ~・・・。
来る途中林君達が言っていた。
「ライブハウスに来るお客さんは、自分たちの事を知らないし、もちろん曲なんて知らない。だから、1曲めが大事なんだ。俺たちのバントは・・・・何ていうか・・おこぼれみたい感じで出さしてもらっているからさ・・。だからまず、知ってもらうことが大切。2曲くらいしか出来ないけどその代わり、その2曲に思いを込めるんだ!次もまた聞いてほしい、知ってほしいとかね。」
「まぁ!俺たちの実力ならワンマンもすぐだけどな!」
「亮二・・・あぁ!絶対叶えてやるよ!」
2人は、笑顔でハイタッチをしていた。
2人の音楽への色は強くて、来る途中も、来てからも本当に自分がここに居て音楽聞いてもいいのかと言う色が強く広がっていく。
ライブが始まった・・・。
小倉君みたいな派手な格好の人たちが歌っている。
正直、早口過ぎて何を言っているのかわからないし、聞き取れない・・・。
ガラス張りから見下す会場は、お客さんの様子がよくわかる。
タオルを振っている人。
頭を振っている人。
隣の人と話している人。
携帯電話を触っていて、ライブを聞いている様には見えない人。
・・。
・・・・?
「あの・・静華さん・・あっあれは・・?」
「あぁ・・。こんなものなのよ。ライブハウスって、自分たちの好きなバントだけ聞きたい人。新しいバンドを探している人。ダダの暇つぶしの人だっている。もちろん、演者達は本気よ。ここから大きな舞台へ行きたくて頑張っているの。けれども、お客さんは素直。残酷なほどね。」
自分は、いま演奏している人達を知らない。
曲を聞いてもよくわからない。
それでも、今歌っている人達が、汗を流して力を絞って演奏している。
きっと・・この中の誰よりも音楽の事がわからない。
けれど・・・一生懸命演奏している相手の曲を聴くのが礼儀かもしれない・・。
・・・。
・・・・・。
「静華さん・・・・。下の席に行ってもいいでしょうか?」
礼儀?・・ほんとうに礼儀になるのかどうかは・・
よく・・わからない・・。
けれども、見てみたい・・・・。
ガラス張りの涼しくて快適な場所じゃなくて、目の前で見てみたい。
歌っている人達から感じる色は・・・・きっと・・熱いはず。
静華さんは、ライブの時はVIPルームから離れられないらしく、一階アリーナと呼ばれる場所の最後尾まで案内してくれた。
VIPルームほど、安全とは言えないらしく持ってきたカバンは預かってくれた。
尤も、財布と携帯とハンカチとテッシュケースしか入っていない。
アリーナ席の前は、バンドのファンクラブ。
真ん中の席は、ライブハウスの会員で予約した人達。
後ろの席は、飛び入りや当日券の人達。
自分は、林君達に予約したチケットを貰ったので真ん中の席に入れるが、この熱狂の中に入れる勇気はない。
その為、一番後ろの席にお邪魔することになった。
こそこそと忍び足で歩いている自分を他のお客さんが不審な目で見る・・。
恥ずかしい・・・。
静華さんに教えて頂いた席は、立ち見席だった。
入り口で貰ったパンフレットの中から林君達のバンド名を探す。
確か・・、林君達のバンド名は・・。
(サンセット・ストリップ)
どういう意味があるのだろうか・・?
パンフレットには、サンセット・ストリップはなかった・・。
そういえば・・おまけとか言っていたような・・・。
パンフレットから目を離してステージを見る。
なんだろう・・・。
上で見ていた時よりも・・・。
ずっと、ずっと熱い。
周りの雰囲気に飲み込まれてきたのだろうか。
それとも、ステージと客席の間を照らしているライトが眩しいからだろうか。
バンドの歌声。
客席からの声援。
耳に突き刺さる様な大きな音が自分を包んでいる。
違う・・。
包んでいるとか、そう言う柔らかい色じゃない・・。
もっと・・。
強くて・・・。
絡まって解けないような・・。
引っ張られて抜け出せないような・・・。
全部だ。
きっと、ここにある全部が自分を捕らえて離さない。
そう断言できる。
・・・。
・・・・・。
暑いな。
・・・い・・・・・おい・・・。
あ・・・・きこえ・・・。
ちょっ・・・亮・・・・・しつ・・・。
バシッ!
「・・・え?・・・。」
「おい!あほ女!いつまでそこに居んだよ!」
「ちょっ!亮二!女の子を叩くなんて!静華姉にばれたら知らないよ?それより・・。大丈夫?藤城さん?」
・・・。
「・・・林君達は・・いつ出番だったのですか?」
「「はぁ?」」
「あっの・・・えっと、すみません。なんだか・・途中から記憶がなくて・・・。」
「嘘だろ!俺らの曲聞いてなかったのかよ!お前!せっかく連れてきてやったのに!」
「ほんと!すみません!」
「いやいやっ。いいよ。無理に連れて来ちゃったんだし。それに、藤城さんは初めてだったんだからびっくりしたんだよね!」
不甲斐ない。
慌ててフォローしてくれる林君。
曲を聞いてなかったと怒る小倉君。
・・・本当に・・不甲斐ない・・・。
せっかく、2人に連れてきて貰い。
静華さん達に服まで着せてもらって・・。
自分は、何をしにここまで来たのだろうか。
神楽を舞う為に、音楽を勉強しに来たのではなかったのだろうか・・。
あぁ~・・下げた頭を上げる事が出来ない。
「あなたたち何をしてる!女の子に頭を下げさせるなんて!」
語気に黒い色を含ませた静華さんの声が響いた。
高いヒールの音が、アリーナに残っている人達を停止ッさせる。
「ちょっ!俺らのせいじゃねーよ。こいつが全然曲聞いてねーとか言うから!」
「そう。でも、そんな事で女の子の頭を叩いたり、頭を下げさす理由にはならないわ。ここは、ライブハウス。あなた達は、演者で依天ちゃんはお客様。ここで、どの曲を聞いてどの曲を聞かないかはお客様の自由。自分達の曲を聞いてほしいなら実力をつけなさい。お客様を自分達の世界に引き込み夢中にさせる演出をしなさい。それが、出来ない演者がお客様を非難するなんて身の程しらずよ。」
「「・・・・・。」」
「ち・・・違うんです。えっと・・・お2人の曲を聞きたくないとかじゃなくて・・その・・・途中で熱くなってしまって・・・もっと色んな曲というか・・・バンド?を見ていたくて・・・その・・。何て言えばいいのか。とにかく、全部が凄かったです・・・。」
自分が悪いのに、林君達が怒られてしまったのに・・・。
どう表現すればいいのか・・・。
どれが・・・・正解なのか・・・。
こんな時は・・どう言えばいいのか・・。
「・・・つまりさ・・・俺らの曲というより、ライブが楽しかったってことでいいのかな?」
「はぁ・・。つまり、ライブに浮かれすぎて俺らの曲を聞き逃したってことかよ。」
2人の大きなため息と解釈が自分を助けてくれた。
「・・・・多分?・・多分そうです・・すみません。」
「そんじゃあ、しゃーねーな!」
「藤城さんが、楽しかったのならしょうがないよね。俺たちの曲がまだまだって事だよね。」
「あぁーー!こんなど素人にも聞いてもらえないんじゃな!」
「いやっ・・えっと!本当にごめんなさい。」
「謝らないでよ。謝られたら逆に傷つくよ。それに、静華姉の言う通り俺たちの実力が足りないだけ、藤城さんを夢中にさせれるようにもっと、頑張るからさ。次のライブも聞いてくれる?」
どうしてだろうか・・。
自分が、きちんと聞けてなかっただけなのに・・・。
2人は、何も悪くないの・・・。
どうして、2人ともこんないに眼がキラキラして見えるのだろうか。
林君の問いかけにただ頷くしかない。
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