第127話 予言

パァン!ダンッ!


床への踏み込みと、竹刀が当たった時の音が道場に鳴り響く。剣道というものを、なんとなくしか知らない琥珀には、初めての光景で思わず見入ってしまう。


竹刀が当たったり、床を踏む音は激しく、少し怖くも感じたが、それよりも、最愛の恋人の勇士にただただ見惚れていた。


「すごい……」

「ええ、手加減してるとはいえ、あの人の動きをしっかりと捉えてますね」


隣で見ていた暁斗の祖母である忍ですら、そう言うほどに凄まじいものだった。しかし、琥珀は少し引っかかって思わず聞いていた。


「あの、手加減って……あれでですか?」

「ええ、でもあの子はほとんど初心者でこれですから、本気でやれば中学の大会なんて余裕でしょうね」

「あっくん、やっぱり凄い……」


ボーッと熱の籠った視線を向ける琥珀。その瞳は恋する乙女で、暁斗の祖父である源蔵の方は眼中になく、暁斗のみを見ていた。


「まあ、あの子の場合、他の経験があるのかもしれませんが……ふむ……」

「お祖母様?」


しばらく考えてから、忍は声を落として聞いてきた。


「琥珀さん、もし、悪夢を見たら暁斗に報告してください」

「悪夢……ですか?」

「ええ、まだ当分先でしょうが……」


首を傾げる琥珀に忍は優しげな笑みを浮かべて言った。


「杞憂でしょうけどね。暁斗は頼られることが嬉しいので、甘えてあげてください」

「はい。でも、私、あっくんに頼ってばっかりで……」

「いいんですよ。だって、暁斗は貴方が隣にいることが何よりも嬉しいのですから」


忍としては、暁斗の気持ちも琥珀の気持ちもよく分かった。暁斗のように、ただそばに居て欲しいという気持ち、琥珀の助けられてばかりという気持ち、どっちも分かる。でも、それがすれ違う可能性は低いだろうとも思うのだ。


それくらい、2人はラブラブだし、それくらい2人の愛は深いものだからだ。


「そばに……私、あっくんのそばに居てもいいんでしょうか……?」

「暁斗はそれを望んでますから。それに、琥珀さんも同じ気持ちだと思いますが?」


その言葉に琥珀は頬を赤らめてこくりと頷く。そんな琥珀を満足気に見つめてから、未だに打ち合ってる2人を見て忍は呟く。


「……きっと、あなた達は幸せになれますからね」


楽しげな源蔵の顔と、必死ながらも、琥珀の気配を感じで何度か視線を琥珀に向ける暁斗。そして、そんな暁斗からの視線が嬉しくて微笑む琥珀という3人を見て忍は満足気な表情をする。可愛い孫の幸せを確信しながら。



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