婚約破棄から三年、聖女に選ばれたから側室にしてやるですって、滅びやがれ!

克全

第1話:聖女・聖女ローゼマリー視点

 いわれのない冤罪によって婚約を解消され、生まれ育った国を追放され、遠く離れた皇国の教会に押し込められ、何の援助も受けられず暮らしてきました。

 みんなが幼い頃から修行するのを、十五歳まで公爵令嬢として育った世間知らずが始めたのですから、その厳しさ辛さは筆舌に尽くし難い物がありました。

 それこそ、血涙を流すような辛い日々でした。


 ですが、私は恨みを晴らしたい一心で頑張りました。

 寝食を忘れ、それこそ毎日倒れるまで努力を重ねました。

 教会も基本社交界と同じで腐り果てた所ですが、まだわずかに真摯に神を敬い崇め祈りを捧げる、敬虔な神官や修道女もおられます。

 そのような方に助けられ、ようやく今日を迎えることができました。


「聖女様、会場の準備が整ったそうでございます。

 御案内させていただきますので、こちらにおいで下さいませ」


 案内係の修道女が声をかけて先導してくれます。

 命懸けの荒行まで行った努力が報われ、前代未聞の速さで聖女に選ばれたのです。

 大地に豊穣をもたらす聖女は、幼い頃から厳しい修練を続け、中年になってようやく選ばれるのが普通です。

 私のように、わずか三年で、十八歳の若さで選ばれるなど、前例のない事だそうですが、私自身はそれだけの努力はしてきたつもりです。


「聖女様、教皇猊下が祝福をしてくださいます」


 教皇、金に汚い女好きの糞野郎。

 教会に追放された私に、元公爵令嬢を嬲り者にしたいという、下劣な獣欲を満たそうと襲いかかって来た色情狂。

 幸運にも敬虔な修道女が助けてくれましたが、そうでなければあの時自害していたでしょう。


「ありがとうございます。

 あの、私が神に願えば、天罰が下るというのは本当でしょうか?」


 私は思い切って案内の修道女に聞いてみました。

 年若そうには見えますが、聖女の案内係に選ばれるくらいですから、かなり優秀な修道女のはずです。

 司祭の資格はもちろん、司祭長くらいの資格を持っているのかもしれません。


「申し訳ありません、聖女様。

 私はまだ不勉強で、全ての書物に通じているわけではありません。

 祝福の後で、枢機卿を務められておられる修道女が助言してくださいますので、その時に御下問してくださいますか」


 確たる返事をくれないとは、慎重な修道女です。

 教会も出世争いの激しい足の引っ張り合いが常識の場所です。

 聖女や聖人ではなく、現世利益を求めで位階を争う者が大半です。

 そんな教会では、言質を取られるような事は口にできないのです。

 この修道女も、聖女ではなく枢機卿や総大司教を目指しているのでしょう。

 修道女が教皇になるのは事実上不可能ですからね。


「分かりました、枢機卿に教えていただくことにします」


 仕方ありませんね。

 祝福の後で直ぐに教皇に報復したかったのですが、少し待ちましょうか?

 しかし、枢機卿に教えてもらってから教皇が天罰で死ねば、私が疑われるのは確実ですね、だったら質問前に天罰を試した方がいいかもしれません。

 そうなると、この修道女にした質問は失敗でしたね。

 さて、この修道女をどうするべきでしょうか?


「教会の階級」

聖者  :神に選ばれた神官

聖女  :神に選ばれた修道女

教皇  :教会の支配者

枢機卿 :教会の最高幹部

総大司教:大管区を纏める

大司教長:管区を纏める

大司教 :地区を纏める

司教  :大きな教会の長

司祭長 :中くらいの教会の長

司祭  :小さな教会の長

助祭  :教会の下働き

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