クモ

最近、虫を殺すことに罪悪感を覚えるようになったので、家の中で虫を見かけても、殺さずに見逃したり、外まで誘導したりするようになった。(虫に触れないため、つまみ出すことはできなかった。)


今年の三月。夜中に、家の中でクモに出くわした。

ありがたいことに窓にかなり近い位置にいたので、そのクモを外まで誘導することにした。


下敷きを使って後ろからせっつき、ひたすら窓まで誘導した。窓に到着したら、シャッターを開けて、窓のサンの凹凸にクモが嵌らないように、凹凸の上にサランラップまで敷いた。(色付きのものだと、クモが警戒して上に乗ってくれないため。)


そして、誘導し始めてから三十分ほど経ったのち、ようやっとクモがサランラップの上に乗った。


「もうサランラップの上に乗ったし、後はクモが歩くのを待つんじゃなくて、自分がサランラップを持ち上げて、外に放ってやろう」と思い、サランラップを持ち上げた瞬間、風が吹き、サランラップが大きくあおられた。

虫を触れない私は軽くパニックになり、手元が狂った結果、サランラップに乗ったクモを勢いよく吹っ飛ばしてしまい、手元にはサランラップだけが虚しく残った。そして、「自分は今まで一体何をしていたんだ」と思った。


例のクモがどこへ行ったかは分からないが、元気に生きていてほしいと思う。

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