第288話 そして、二人に

 端井に言われなくても……俺だって、前野が普段とは違うことは、俺も理解していた。


 そして、明らかに俺との距離を詰めようとしていることも。ただ、俺がソレに対してどのように対応すればいいかがよくわかっていなかった。


 結局、夕方になってしまって、俺達は河原を歩いていた。そろそろグループ行動が終わり、今日宿泊するホテルに戻らなくてはいけない。


「あ」


 と、声を出したのは、前野だった。


「ここ、ちょっと座りたい」


 そう言って前野は俺のことを見る。明らかに「俺と」座りたい、ってことのようだった。


 俺は思わず端井と外川の方を見る。


「……もう時間がないよ~? ホテルに戻るのが遅れたら怒られるんじゃないかな~?」


 外川が珍しくまともなことを言う。端井も同調するようにうなずいていた。


「じゃあ、二人は先、戻っていていいよ」


 そして……前野はそれ以上に予想外の返事をした。


「……は? ちょ、ちょっと待ってよ。流石に僕たちだけで戻るのは……」


「大丈夫。二人に迷惑をかけないように戻るから」


 前野は笑顔で外川にそう言う。外川は苛立たしげに前野のことを見ているが、前野は余裕の笑みである。


「外川さん……」


 と、端井が宥めるように、外川に声をかける。外川は明らかに苛ついた様子で俺のことを睨む。


「……くれぐれも、遅れないように、ね」


 そう言って外川と端井は行ってしまった。最後、端井が一瞬こちらを向いて、苦笑いしながら手を振っていた。


 ……なんだ? 今の端井の様子、これまでも変だったが、今の行動……なんだか、最初からこうなることを予想していたような……。


「やっと、二人になれたね」


 俺がそんな二人を見送っていると、後ろから声が聞こえた。


 俺は振り返る。


 初めて前の席に座った時と同じような、綺麗な黒い髪が、微かに揺れている光景が、夕焼けの川べりに映えて……とても、綺麗だった。


「少し、話そうよ」


「……あ、あぁ……そうだな」


 こうして、俺と前野はついに、二人きりになってしまったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る