第285話 相性

「手、握った?」


「……あぁ」


 ついに順番が回ってきて、俺達は石の前に立って、手を繋ぐ。


 別に、他のカップルもやっていたし、そこまでおかしいことではない。


 でも、これは完全に、俺と前野は、他人から見ればカップルということになるのだが……。


 ふと、俺は少し離れた場所で立っている端井と外川を見る。端井は不安そうな顔で俺のことを見ているが、外川はなぜかイライラしたように俺のことを睨んでいた。


「後田君。行くよ」


 前野の言葉で俺は我に返る。そして、目を閉じた。


 手を握ったままで歩き出す。目を瞑っているので、余計に前野の手を握っていることを意識してしまう……。


 一歩一歩、確実に……なんだか異常に長い時間、前野と手をつないだままで歩いているような気分だった。


 と、いきなり前野が歩くのをやめたのを感じた。俺も歩くのを止める。


 そして、目を開く。


「……あ」


 見ると、目の前に石があった。どうやら、俺と前野は手を繋いで、目を瞑ったまま、ほぼ真っすぐに正確に歩くことが出来たようだった。


「やったね、後田君」


 嬉しそうにそう言う前野。俺もこの時ばかりは嬉しかった。


 しかし、ここまでうまくいくとなると、やはり、俺と前野は恋占的には相性がいいのだろうか?


「ホントに、目、閉じてたの~?」


 端井と外川の方へ戻っていくと、さっそく外川が意地悪くそんなことを聞いてくる。


「……あぁ。目は閉じてたよ」


「あ、そう……躓いたりすると思って楽しみにしてたのになぁ~」


 本当に不満そうに外川はそう言う。コイツは本当にどうしようもないヤツだ……。


「で、次はどうするの? 私はもう満足したから」


 一方で、前野は本当に満足したようでそう言う。


 ……前野は前野で、こういうことを言うから、友人が少ないのだと、改めて俺は思うのであった。

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