第275話 当然の権利

 家に戻った後、ベッドの上に横になっていたが、やはり、外川と端井のことが気になってしまった。


 外川は一体、端井に何を吹き込むつもりなのだろう……端井はそもそも、大丈夫なのだろうか?


 ……いや、別に俺が気にすることでもないような気もする。


 それにしても、なぜ、俺は外川に嫌われているのだろうか? まぁ、嫌われているというか、粘着されているというか……。


 と、そんな折に、スマホの着信音が鳴った。


「……誰だ?」


 俺が起き上がってスマホの画面を見る。


「……前野?」


 前野からの電話だった。俺は迷わずに応答する。


「……はい?」


「あ。後田君。どうも」


「……どうも。なんだ? わざわざ電話してくるなんて」


「う~ん……大した用事じゃないんだけど……あれから、どうしたのかな、って」


「……あれから? あぁー……まぁ、外川に無理やり連れて帰られたが……」


「外川さん、なんだって?」


「……いや、なんか、結局よくわからなかったなぁ。端井を応援するとかなんとか……後、俺がリア充になるのが許せない、とか……」


 俺がそう言うと前野はしばらく黙ってしまった。


「……前野?」


「ふーん。そっか。なんだか……変な人だね」


 そればかりは、前野に同意した。外川は一体何をしたいのかは、俺もわからない。


「ねぇ。後田君」


「……どうした?」


「私達って……青春しちゃいけないのかな?」


「……は? 何言っているんだ? 急に」


「いや……例えば、デートしたり、イチャイチャしたりって、私とか後田君みたいなタイプの人間はしちゃいけないって、後田君も思う?」


 ……急にきた質問に俺は戸惑ってしまった。


 しかし、しばらく考えてから俺は答えを述べる。


「……いや、そんなこと、全然ないだろ。まぁ、それができるかどうかはともかく……別に青春したっていいだろ。俺とか、お前が。それは人間としての当然の権利だ」


「フフッ。人間としての当然の権利、ね……そっか。安心した」


 電話の向こうの前野は少し嬉しそうだった。俺もなぜか嬉しくなった。


「ごめんね。電話した理由、ホントは、後田君の声を聞きたかっただけなんだ」


「……そうか。まぁ、また、学校で会うから」


「うん。じゃあね」


 そう言って前野は電話を切った。


 ……いや、最後のセリフ。どう考えても思いっきり青春っぽかったぞ。


 そして、俺もその時、明確に理解した。


 もう、俺は前野と青春っぽいことをかなりしてきたのだ、と。

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