第220話 皮切り

「……えっと、それで、どうですかね?」


 そして、出し物の役割を決める日となった。


 横山は……その日も休みだった。というか、中原との一悶着があってから学校に来ていないのである。


 ……流石に不味いと思う。しかし、俺がどうにかしていい問題なのだろうか。


 教壇の地点から、ちらりと中原を見る。中原は心ここにあらずと言った感じで、窓の外を見ている。


 そして、出し物の役割に関しても……何の反応もなかった。それはそうだろう。誰もやりたがらないに決まっているのである。


「誰かいない?」


 先生がそう言うが、誰も手を挙げない。嫌な沈黙が続く。


「じゃあ、私達から先に立候補します」


 と、そう言ったのは……前野だった。


「前野……立候補って、どういうことだ?」


 先生も困惑しているが、前野は平然とした顔で続ける。


「実行係でもありますが、私達も出し物の役割を担うってことです。私、お化け役をやります」


 前野は凛とした調子でそう言った。その自身に満ちた表情は、今まで俺の前の席にいたどこか斜に構えている前野とは違った。


「……あ、じゃあ、俺も立候補します。その……設備役を」


 そして、自然と俺もそう言葉にしていた。そんな反射的な行動を前にして前野は嬉しそうに微笑んでいる。


「わ、私もです!」


 と、聞こえてきたのは端井だった。


「まぁ……そういうことなら、やるかぁ」「私もやろうかなぁ」と、俺たちの立候補を皮切りに、どんどんと手が上がっていったのであった。

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