第160話 躊躇なく

「……で、これ、どうするんだ?」


 夜になって、俺と横山は目の前に置かれた魚を眺めて困り果てていた。


 実はあの後、何匹か魚が釣れたのである。魚が釣れたのはいいのだが……。


「えっと……ウチ、捌けないんだよね……っていうか、魚を触ったこともあんまりないっていうか……」


 申し訳無さそうにそういう横山。まぁ、俺としても、横山と同レベルであるし、なぜ、自分が処理できないのに魚を釣ってしまったのか、後悔するばかりなのだが。


「どうしたの?」


 と、そんな折に俺の背後から声をかけてきたのは、前野だった。


「……前野。お前……魚、捌けるか?」


 ダメ元で俺は聞いてみた。前野はキョトンとした顔で俺のことを見ている。


「うん。捌けるよ」


「……だよな。捌けるよな……は? え、今、捌けるって言ったのか?」


 前野はコクリとうなずく。そして、何のためらいもなく、机に置かれた魚の一匹の尾びれの部分を掴む。


「これ、食べられそうだね。ちょっと待っててね。愛留ちゃん、包丁、ある?」


「え……う、うん! あるよ!」


「じゃあ、それ以外にも、ちょっと手伝ってもらいたいんだけど、いい?」


「もちろん! 手伝うよ!」


 そう言って女子二人は台所へ行ってしまった。俺も何かしたほうがいいのだろうか……。


「あ。後田君はしばらく待っててね」


 そう言おうとした矢先……俺は待機させられることになってしまったのだった。

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