第133話 罪悪感

「じゃあ、帰るね」


 すでに窓から差し込む光はオレンジ色になっていた。


 結局、その後他愛ない話をして、前野は家に帰ると言い出した。


 そもそも、勝手に家に来て、勝手に帰ると言い出すなんて、なんとも勝手なヤツだとは思うが……何故か俺の中には罪悪感があった。


 何より、前野が言った「はっきりしないところ」という言葉……なんだか俺の内部に深く突き刺さる言葉であった。


「……次に会うのは無人島に行くときか」


「そうなの? 私とは、もう休み中、会いたくない?」


「……そういう意味で言ったんじゃない」


 俺がそう言うと前野は悪戯っぽく微笑む。


「まぁ、気が向いたら、また連絡するね」


「……あぁ。勝手にしろよ」


 と、前野はなぜか帰らず、俺のことを見ていた。


「……なんだ? まだ何かあるのか?」


「後田君、私に言っていないこと、あるよね?」


「……言っていないこと?」


「うん。愛留ちゃんと、どこかに行くとか、約束してない?」


 前野は微笑みながらそう言う。いきなりそんなことを言われて俺は少し動揺した。


「……あぁ。約束した」


 動揺していたからか、素直に俺はそれを認めてしまった。前野は少しの間、真顔に戻ったが、すぐに笑顔に戻る。


「やっぱりね。まぁ、いいけど」


 そう言うと前野は俺に背を向ける。


「じゃあ、またね」


 俺はまたしても罪悪感を感じながら、去っていく前野の後ろ姿を見ていたのだった。

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