第119話 確信犯

「……なんで水着を買うんだ?」


 俺はデパートの中に入ったと同時に前野に尋ねる。


「なんで、って……無人島行くんでしょ?」


「……そうだな。行くことになるだろうな」


「その時、海で遊びたいし」


「……そういうのって、1人で行くか……女同士で行くものじゃないのか?」


 俺がそう言うとわざとらしく気付いたかのような顔をする前野。


「私、そういうのしたことないから、知らなかったな」


「……お前、最初から横山と行く気、なかっただろ?」


 俺がそう言うと前野はいらずらっぽく微笑む。


「だって、愛留ちゃんと行くと、なんだか……自分が小さく感じちゃう気がするし」


 そう言われて俺は思わず思い出してしまう。


 ……確かに、前野よりも横山の方が、色々な面で大きいと言える……って、俺は何を考えているんだか。


「……というか、普通、水着買いに男を連れて行かないだろ」


「そう? そういうのも初めて出し、知らなかったな。それに……後田君に見せたかったし」


「……見せたかった? 何を?」


「私の水着姿。いきなり見ると、びっくりしちゃうと思ったから」


 いたずらっぽく微笑む前野。


 というか、俺だけを連れてきたのも、明らかに確信犯的行動である。かといって、すでに俺は逃げることはできない。


 デパートのエスカレーターを上がっていくと、ついに、そこは近づいてくる夏に向けた水着コーナーなのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る