第117話 面倒

 俺は教室に戻る廊下を歩きながら考え込んでいた。


 それはもちろん、どうして、中原いきなりあんなことを聞いてきたのか、ということについてである。


 中原がいきなりあんなことを聞いてくる理由……きっと、それは何か情報を得たからだろう。


 例えばそれは、中原の所有している無人島に俺と前野が同行するという話……というか、それ以外に考えにくい。


 それに、中原以外にも、俺に横山……正確には横山と前野のどちらが好きなのか聞いてきたヤツがいた。


 俺は教室に戻ると同時に、その人物がいる席の方に顔を向ける。


 その人物は鋭い視線で俺を睨んでいた。そして、しばらくしてから不気味にニヤリと微笑む。


 ……まぁ、十中八九、端井の仕業だろう。


 アイツは俺に対して「俺の都合が良いようにはさせない」とかなんとか言っていた。大方、中原に無人島に行くことを吹き込んだのだろう。


「後田君!」


 俺がそんなことを考えている矢先に、横山の声が聞こえてきた。横山は少し不機嫌そうだった。


「……あぁ、悪かったな。途中で話を切り上げてしまって」


「……で、どこに行ってたの?」


 俺は……その質問に答えられなかった。中原と会っていたことを言えば、当然、中原が俺に聞いてきたことも言わないといけなくなる。


 そんなこと、言えるはずがなかった。


「……どこでもいいだろう」


「え……ちょ、ちょっと! 何それ……」


 横山は不満そうだったが、俺はそのまま自分の席に戻った。


「どうしたの? 何か揉めてた?」


 と、前野が振り返って俺に訊ねてくる。


「……いや、別に。横山が騒いでいるだけだ」


「ふーん。そっか。まぁ、それならいいけど」


 前野は幸い、それ以上何も聞いてこなかった。俺はふと、窓の外の空を見上げながら……なんだか面倒なことに巻き込まれているなと感じるのであった。

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