第100話 危険

「でも、意外だったな」


 と、しばらく経ってから、前野が不意にそんなことを言い出した。


「……何がだ?」


「後田君と端井さん、結構仲良かったの?」


 予想外の発言に俺も端井も戸惑ってしまった。俺と端井はそのまま顔を見合わせる。


「……いや、仲良いって、程ではない気がするが」


「そう? でも、二人で一緒にここまで来たんでしょ?」


「……は? なんでそう思うんだ?」


「だって、端井さんに、私の家の場所、教えてないし」


 前野の視線が明らかに変わった。いつものように素っ気ないフリをしているが、なぜか……少し怒っているように見える。


 端井の方はそんな前野を見て思考が停止してしまっているのか、呆然としている。


「……な、なるほど。そうだな、たしかに、俺の家からここまで一緒に来た。だが、それが何か問題なのか?」


「別に。じゃあ、端井さん、後田君の家の場所も知っているんだ」


 ……完全に墓穴だった。前野の目が冷ややかに俺のことを見ている。


 端井は完全に魂が抜けてしまったかのようで、その場で微動だにしなかった。


「……そうだな。知っていることになるな」


「へぇ。私も最近知ったばかりだけど、端井さんはいつから知ってたのかな?」


 そう言って前野は端井のことを見る。端井は蛇に睨まれた蛙のように怯えてしまっている。


「ねぇ、端井さん」


「あ、あぁ……わ、私! やっぱり帰ります!」


 すると、端井はいきなり飛び上がったかのように立ち上がり。そのまま荷物をまとめて、前野の家から飛び出していってしまった。


「は、端井!」


 俺の呼声も聞かずに、そのまま端井は行ってしまった。


「あれ? なんか、私、悪いこと聞いちゃったかな?」


 あまり悪びれていない、むしろ、確信犯的にそういう前野。


「でも、困ったね。勉強会、二人だけになっちゃったね」


 そう言って、なぜか嬉しそうにそう言う前野の目は……今まで学校で見てきたものではなかった。


 何かを仕掛けてきそうな、鋭い光を感じさせる視線で、俺は……なんとなく、危険を感じてしまったのであった。

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