とりあえずありがとう
只野差流
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「緊急ニュースです。世界各地で謎の大量突然死が起きています。」
ある日世界は変わった。みんな絶望した顔をしていた。でも、中には楽しんでる人もいて、その人たちでも色々な人がいる。
「前田、お前怖いか?」
「いや、俺は全然怖くないね。だって死んだ奴らみんな一瞬で頭吹き飛んだんだろ?バラバラだぜ?バラバラ。あんな砂粒サイズまでバラけるんだから、普通に死ぬより楽だろうぜ」
前田はそう言って指と指で大きさを主張してきた。
「いつ死ぬかわからないんだし、もう好きなことしようぜ」
「って言ってもよ、何すんだよ」
「あれだよ、あ、れ!」
前田はピースサインを作って口に押し当てた。吸ったこともないくせにうまそうな顔。
「ああ、そういえば俺絶対吸わないって決めてたわ」
「え!なんで!?」
「喘息だからさ...ハマってもやだし。まぁ、でも、いつ死ぬかわからんしなぁ」
「よし!いい決断だ!学校出たすぐのとこにある自販行くぞ。もう我慢できねえ!」
尻についた土を適当に払って、無意味に塀を越えて、いつもと違う通路を通る。いつもは見ない三毛猫がいた。前田が首輪を覗く。
「なんじゃこのブサイク。カ、カ、オ?っていうのか」
「猫とかもバラバラになって死なんのかな?」
「そうだな、どうせだったらこのブサイク猫もバラバラ死の対象になってくれたら良かったな」
よく見るとそいつはアバラ骨が出ていた。人間だけが絶滅すると思っていたけど、こういう奴らも結局は行き着く場所は同じなのかもしれない。
「お、見えた。」
古びた自販の周りにはもっとよく見えてしまうものばかり散乱している。しかし、この状況の長さがそれを薄めてしまった。
「金をいれて〜チャリン、チャリン、ガタン!」
「なんか緊張するわ」
「そんじゃ、俺から...。」
一つ一つの動作を頭で処理しながら手順を進める。
「味は?」
「ん〜」
「え、なに?どんな感じなの?」
「んん〜」
表情の読めない顔をする前田にイライラして急ぎ足でタバコに口をつけた。
「どう、味は?」
「.......ん〜、としかいえないわ」
「ん〜」
「ん〜」
「ちょっと聞きたいんだけどさ、前田ってあのまま何事もなかったらさ、進路どうしてた?」
「うわあ、つまんねえ質問。もう全部終わるってのにさ。」
「いいじゃん、どうせ死ぬんだし」
「まあ、そうだなあ。ちょっとどうしたかわからないな。」
「あ、決まってなかったんか」
「まあ、就職とかかな。でも、俺絶対すぐクビになると思うけど」
「え?なにそれ?」
「お前に話したことなかったんだけどさ、俺めっちゃ心配だったのね、仕事するの」
「たしかに聞いたことないわ、そんなこと。心配なのはコミュ症だからか?」
「それもあるけど、人間関係とか、単純に仕事の出来とかさ、普段の俺見てたらなんとなく言ってることわかるでしょ?」
「あー、はいはい。なんとなくね、わかるねえ」
「いや、わかってないでしょ」
「いいじゃん別にわからなくて。お前はただ思ってることぶつけてこいよ!熱量で理解するわ」
「まあ、嫌いじゃないよ、お前のそういうところ」
「その話はさ、次行くとこで聞くからさ、行こうぜ」
「え?なに、どこ?」
「コレだよ、コ、レ」
「おお!いいじゃん。じゃあ、これもやろうよ」
「えぇ、できるんかなこの状況で」
「優しい人がいるさ、どっかに」
「そんな奇跡あったらいいな。あ、そうだ、日記つけようぜ日記」
「え、いいけど。意味なくね?読んでくれるやつも残らないしさ」
「宇宙人に拾って読んでもらうんだよ!この星の文明は滅び、俺は宇宙人の教科書に名前を載せて貰うんだよ!」
「はははは!変なテンションきちゃってんじゃん。今日はもう寝ようぜ?なんかめっちゃ疲れたわ」
「なあ前田、起きてる?」
「.....」
「こういうこと言うのもなんか変だけどさ....マジでありがと」
「.....」
「お前と言う存在が居なかったら、たぶん今頃生きてないわ、俺。気の合うやつってこういうのを言うんだな、みたいな。それにお前、ほんとすごいやつだからさ。自分の意思にまっすぐで、要望に忠実で、自分なりの美学?みたいなのも面白くてさ...」
「.....」
「お前は死ぬの怖くねえって言ってたけどさ、俺はめちゃくちゃ怖いよ。天国とか地獄とか、輪廻転生とか。あと、お前とこうすることも無くなるのかって思うと、怖いわ」
「.....」
「.....今のなし、今のなし、おやすみ、また明日」
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