目玉クリップ・母なる大地・血圧

 そこはただただ広いだけの大地が広がっていた。遠くには木が生い茂り森を形成している、近くには川が流れそれは海へと流れ出ている。目の前に広がるのは肥沃な大地。そこはすでに耕し終わっていてすでに畑の体裁を為している。しかし、そこからはまだ、なにも生まれてはいない。なに、至極当然だ。何も植えていないからだ。

 ここは新天地だった。以前の場所は今も元気に稼働中だが、いかんせん注文に対して生産数が追い付かなくって来たと言われて、急遽この場所を見つけ生産が安定するところまで持ってきた。その労力と失った人材は考えたくないが今後の生産数を考えれば痛いがしょうがない部分でもある。この場所を任せられたからには質の良い目玉クリップを生産しなくてはならない。

 目玉クリップの種は。目玉クリップの目玉の部分だ。奇麗にクリップの部分をそぎ落としたそれは、一株あたり40~50の目玉クリップが収穫できる。その中で、出荷できるのは10~20だ。あるものは大きさが小さかったっり、大きすぎたりする。目玉の部分とクリップお部分が直角に向いていないなんてものもある。そいうものはクリップの部分をそぎ落として、目玉の部分をまた植える。それの繰り返しだ。

 しかし、ある程度時間が過ぎれ来ると出荷できる割合がどんどん減っていく。管理は間違っていないはずだし栄養もしっかり与えている。若い従業員を数人呼び出して理由を問いかけた。

『そりゃ、質が悪い目玉からは質の悪い目玉クリップが作られ易くなりますよ。当然じゃないですか』

 みな口をそろえてそう言った。わかっていたら早く教えてもらいたいし、ほかの場所ではどうやっているのか問いただすと。

『もちろん質のいいやつを植えて次のにつなげていました』

 と平然な顔をして告げてきた。一気に血圧が上がるのが分かった。質のいいものは出荷したいに決まっている。それを植えるなんて出荷数を下げるのも同義だと思っていたがどうやら違うらしい。なぜ、だれもそれを教えてくれなかったのか。本社もそんな指示はひとつもくれやしなかった。

「今からでもなんとかなるのか?」

 従業員たちはいっせいに頷く。どうにかなるらしい。質のいい目玉クリップをひたすらに選んではそれを植えていく。一時的に出荷数はガクッと減少したが、のちにそれは増加傾向に変わっていた。

「ここは母なる大地に恵まれている。あんなにも危機的状況に陥ったのに、よくここまで立て直してくれた。かんぱーい!」

 本社からの表彰を受け、従業員たちを集めてのお祝いをした時の開会のあいさつで言った言葉だ。その場にいた全員がポカンとした顔をしていた。何が伝わらなかったのだろう。目玉クリップがここまで成長してくれるのは、この恵まれた母なる大地のおかげだと言うのに……。

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