ドロップスの缶

秋本そら

 翼が欲しいと願う

 それは叶っている

 翼ならある

 私の中に

 つけようと思えばつけられる

 自らの背に

 遠くまで羽ばたける

 大きな大きな翼を

 でもそれをしまいこんでおくのは

 翼を折られることが怖いから


 翼が欲しいと願う

 翼がないふりをして

 いつか翼を手に入れて

 大空へ羽ばたきたいと願う

 翼があるのに見て見ぬ振りをするのは

 誰にも翼を折られたくないから


 昔私には翼があった

 どこまでも行ける翼があった

 でも今はそれを根元から折って

 抱えて隠して持っている

 翼を根元から折ったのは

 このままでは翼が壊れるから


 いつか翼が治ったとき

 再び大空へ飛び立ったなら

 その時翼は折られるだろう

 人に

 ものに

 この世の全てに

 それを覚悟して飛ぼうと思えば

 強く羽ばたけば叶うかもしれない

 私が本当に願うものは


 しかしそれでも容赦はない

 大空の空気は氷のよう

 それを私は知っている

 だから私はもがくだろう


 翼を様々な人やものに折られ

 痛みすら感じなくなった時

 私は自ら翼をへし折るだろう

 二度と私が飛べぬように

 もしそんな日が来るのなら

 そのとき私は涙を流さず

 無表情でいることを願う

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る