どれだけ僕を煩わせれば
飲まず食わず休まずで、糞も小便も垂れ流しながら祈りを捧げてた生贄が、ようやく気を失って倒れたことに、僕はホッとしていた。後はこのまま放っておけば勝手に死んでくれる。それで終わりだ。
……終わりなんだ……
だけど、僕の頭によぎるのは、これまでここで僕に仕えて命を終えた無数の生贄達の姿。
自ら進んで生贄になった者。
脅されて仕方なく生贄になった者。
自分が生贄だってことも分からずに来た者もいたな。
ほとんどは女だったけど、何人か男だったこともある。
逃げ出して野垂れ死んだり、村に戻って殺されたりしたのはともかく、ここに残って命を終えた者達は、皆、なぜか僕に感謝しながら死んでいった。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
って……
別に、僕は何もしてない。ただ、生贄達が生きていけるように、食べ物とかは十分に採れるようにしていただけだ。
中には病で死んだ者もいる。
僕は、雨を降らせたり雷を呼んだり地を慄かせたり湖を割ることもできるけど、病気を治すことはできなかった。なのに、
「ありがとうございます」
とか言いながら死んでいったんだ……
何が『ありがとう』なのか、分からないよ……
そんな生贄達の姿を思い出してると、なんだかたまらない気分になってきた。こういうのが嫌だから関わり合いたくなかったのに……!
無視して寝ていようと思うのに、寝られない。
ちくしょう……
なんでだよ……
自分でも分からないうちに僕はまた人間の体を作って、洞を歩いていた。祠がある辺りに向けて。
祠は、洞を少し入ったところに建てられていた。その祠の奥に進むと、生贄達が作った集落がある。確か、男の生贄が、洞の外の木を切って運んで最初に家を建てたのが始まりだったかな。
その男は、後から来た生贄の娘達にも家の作り方を教え、そうして新しく生贄が来るたびに新しく家を建てていって、十数軒の家が並ぶ小さな集落が出来上がったんだ。
生贄の娘達も家の作り方を学び、次の生贄の娘に伝えていって、自分達で集落を維持してた。
だけど、住む者も直す者もいなくなったそれらは、徐々に朽ちて倒れ、もう、今ではまともに建ってるのは一軒だけになってしまってた。それさえ、そう遠くないうちに崩れ落ちるに違いない。
僕はそんな集落を通り抜け、祠までやってきた。
糞と小便に塗れた人間の匂いがそれだけ強くなる。心臓の音も喉を通る息の音も聞こえる。気は失ってるけど、本当に死ぬにはまだ何日かかりそうなのが分かった。
ふざけるな……
本当にふざけるな……!
勝手に押しかけてこんなところで勝手に死ぬとか、どれだけ僕を煩わせれば気が済むんだよ、人間……!
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