第4話 I'll play it for you

 土曜日、練習試合:弓川Bvs冷勢、ホーム弓川。

「おはよう。昨日はしっかり休んだか?・・・まぁ、授業はあったけど。どうだ?」

到着するなり集合をかけ、問いかける。部員たちはそれに答えるように視線を動かし、誰かを生贄に差し出そうと謀る。

「まぁ、いいや。頑張ってくれれば。」

戸辺は察し、回避させる。

「で、今日は知っての通り、練習試合です。これを組んだのは、皆さんの現状と敵の選手把握のためです。遠慮なくフルパフォーマンスを目指して発揮してください。つけ加えるとするなら、来週からはリーグ戦も開始します。まぁ、そんなことも頭に入れた上で、楽しんでプレーしてください。はい、以上。じゃ、しっかりウォームアップするように。」

再び身体を動かし、散らばっていく。都合よく、本日は運動日和だ。

「あ、そうだ。葉霧!ビブス洗濯、今日までだぞ!よかったな。頑張れよ!」

「あ、はい。」

僅かに振り返り、言い去っていく。

「うぁ、まじか。今日もあんのかよ。」

確認してから、愚痴をこぼす。そんな葉霧の背中を先輩、同級生たちが次々と叩く。

「お疲れ!」

「よろしく。」

「頑張れ。」

「よっしゃっ。」

嘲笑の念がこもりにこもったエールが嫌というほど送られる。

「おい!いじってないで練習するぞ。」

コーチたちが呼ぶ。

「はい。」

ボールを前に運ぶ。


 「よし。じゃあ、いよいよだな。気合入れてくぞ!」

「はい!」

戸辺はいよいよ1セット目を迎える選手たちを集め、最終ミーティングに移る。

「オーケィ。じゃあ、最初は4-3-3で前からいきます。一試合通してハイプレスが維持できるようコントロールしてプレッシャーをかけ続けてください。そうすると、相手はがっつり引いてくるだろうから、3人の関係で前後左右のギャップとバランスを意識して崩すように。いい?分かった?」

「はい。」

緊張した面持ちの選手、一人一人の顔を見つめる。

「大丈夫、これは練習試合だ。少々パスがずれたって、カットされたって、必要な一対一で負けてロスしたって、全然いい。大切なのは今言った、二つの"意識"と"感覚"。これをしっかり掴んで身につけてこい。これさえ、できればオールクリアだ。結果なんて問題ないよ。本当だ。だから、やろうと、掴もうとしてくれ。もしそのやるべきことが少しでも分からなかったら、迷わず聞け!何度だって言うよ。いいか!?」

捲し立てるように問いかける。

「はい!」

強張った顔で返事を返す。

「なーにぃ、心配するな。勝てるから、楽しんでやってこい。」

拍手で選手たちを送りだす。意気揚々とした足どりの中に、若干の緊張。珍しく春の陽気の中、トレーニングマッチが始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る