第11話 異世界食材で親子丼!⑤

「龍王を……食べる……?」


 ルーナは外れかけた顎をガギンと自力で修復してから驚愕の表情で声を張った。


「あぁ。国同士の戦を止める美味さってのは、何とも楽しみだとは思わないのか?」


「む、無茶です! 第一、グラントヘルムは神出鬼没です! それに、奴の吐く火炎ブレスは街を丸ごと覆い尽して焼き尽すんですよ!? み、見たところによると……その、失礼を承知ながら、タツヤ様は魔法も使えないようですし……。もし見つけたとしても、一撃で丸焼きにされてしまいます!」


「……まぁ、だろうな」


 俺だって、単身でそんな得体のしれない化け物と闘おうなんて思ってはいない。

 あくまで、先々の話だ。この世界では俺が出来ることはかなり限られているだろうがな。

 はてさて、それでも当面の間はどうするか、だな。


「どうしたんですか? お客様。どうやら古龍神のことをお話していたようですが……」


 平皿を回収しにやって来たその若い女性店員に、ルーナは縮こまって「す、すいません……お店の中で」と顔を赤くして俯いてしまった。


「お客様はこの土地をあまり知らないようですし、こちら、サービスさせていただきますね。この付近では沢山お仕事があるので、これをたべて頑張ってください!」


「あ、お気遣いありがとうございます」


 そう、明るい笑顔で厨房へと戻っていった店員さんが置いて行ったのは、串に刺さった肉だった。

 ふむ……。


「まぁ、なんだ、ルーナ。さっきの話は忘れてくれ。俺もそんなに本気で言ったわけじゃないからな」


「そ、そうですか?」


「ああ。とりあえず、これ食ってキッチン一式取りに行こうぜ。ここのルールとかは分かんないけど、とりあえずは何とかなるだろう」


「で、では……。お言葉に甘えて」


 二人して、出された二本の串に刺さる肉にかぶりついた。

 そういえば、あの店員さん何の肉か言ってくれてなかったな。もしかして、またアリゾテール龍の――


「――……ッ!?」


 ふと、口にしたその肉。

 口の中でこきゅり、こきゅりとジューシーな脂が暴れ回っていた。

 正直、アリゾテール龍の尻尾と比べることも出来ないほどに美味い物である。


「……これは……この味は……鶏だ……!」


 そう、それは部位で言えば、鶏のもも肉。

 何故こんな所にあるんだ? 鶏の、ももの肉が。

 だが、こんなにも美味い肉がこの店のメニューとして出されていないのはおかしくはないだろうか。

 ――と、そんな思いを駆け巡らせている俺に対して、ルーナは鶏肉を喰った瞬間に、しばらく咀嚼した後に顔を真っ青にした。


「タツヤ様……タツヤ様……ッ!」


 ルーナは、即座に金だけを置いて顔を真っ青にしたままに店の後方を指さした。

 その先にあるのは厨房。厨房先では、冷めたような表情で肉を――いや、鶏を捌き終えた一人の男がにっこりとこちらに顔を向けていた。


「こ、ここの店主って……龍人族だったんですね……」


 俺の手を引いて逃げ出すルーナは、去り際にぽつりと呟いた。


「私たちは、悪魔の肉を食べさせられたようです……」


 その顔は顔面蒼白。今にも死にそうな雰囲気だ。

 鶏は悪魔の肉? なんでそうなるんだ……。

 俺は不思議に思いつつも、青い顔をして逃げるようにして店の外に出ていくルーナの後をついていったのだった――。

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