ギルド登録と戦闘狂

「…….ナナシ君?世界征服っていうのはどういう事ですか?」

「そのまんまの意味だよ、この世界を征服するって事だ。ムカつく奴は殺すし、口が過ぎる奴は2度とその口が開けなくなるようにするってだけの話だ」

「……本気ですか?メアリーさん、貴方はパーティーの僧侶ですよね?フィーナさんやエルザさんを敵に回すって事ですよ?」

「はぁい、もちろん分かってますよ。ナナシさんはずっとフィーナ様もエルザさんも敵だと思ってますから」

「……1番の親友だというのは嘘だったんですか?」

「それは本当さ、1番の親友と敵対するってだけ。……まぁフィーナはまだ敵対したいと思ってねえだろうけどな」


 3人はそう言ったナナシの表情を見逃さなかった。

 少し寂しそうで普段より俯きがちな顔も、少しだけ小さく細くなった声も。


「……まぁ私には関係のない事ですね、お好きにしてください」

「……そう言えるのは今だけです、ナーガさんもナナシさんの戦いを見れば気持ちは変わりますよ」



「くはは!まぁいいではないか!世界征服であるぞ!なんと甘美な響きだろうか!この世界が僕らの手に入る可能性があるのだぞ!国ではない、世界がだ!!見ろ周りの者達を!街で平和に暮らし、小さくささやかな幸せを積み上げて積み上げてその一生を終える者達だ!世界征服など言葉にするのも痴がましいと思っているような者達の中でバンディットはそうでなかったのだ!!僕はなんと幸福なのだろう!だからこそ貴様についた価値がある!!」


 いつも饒舌なネザーがいつも以上に興奮している。

 ネザーはずっとそうだった、初対面のナナシと敵対したように自ら周りに敵を作ってきた。


 ナナシも戦いは好むがネザーはそれ以上だった。

 戦いを生き甲斐として、相手の一瞬の隙を作るためにまるでそれがパズルであるかのように戦いを組み上げる。

 そしてその隙を突いて一撃を入れる事がネザーにとって何よりの快感なのだ。



「くはは……興奮冷めやらんな……!バンディット、今回は僕がもう限界だ!一刻も早くギルドに登録し、依頼を受けようではないか!!」

「そうだな、フィーナの言う通り暗くなる前には帰りたいしな」

「……世界征服とかいう割には随分お利口さんな考えですね」

「学園にいられねえからその分の勉強はこっちでやっておきてえんだよ、別にお利口ってわけじゃねえ」

「………お利口さんですね」


 ネザーが早くしろとナナシを見ているのでナーガの軽口を無視してギルドに入る。

 すると視線が一斉にナナシ達に向き、皆が話始めた。


「おいあの黒髪黒目……緋剣殺しのナナシとか言うのじゃねえか?」

「あぁそうだろうな、メアリー・ロッド、ネザー・アルメリアも一緒だし」

「あ、なんか見ねえ茶髪がいるじゃん」

「新しいメンバーか?強そうには見えねえけど」


 そんな事をギルド内で話していると急に1人の大きな男が立ち上がり叫び出す。


「おいおい!なんだテメーら!こんなガキ共にビビってんのか!?あいガキ!あんま調子に乗ってんなよ!?」


 挑発のつもりなのかその大男はナナシの正面まで歩いてくるとナナシの顔に顔を近づけて睨んでいる。


「別に調子に乗ってねえよ、別に緋剣だって殺したわけじゃねえし。ギルド登録したいんだ、どいてくれ」


「どいてくれ?どいてくださいだろうがガキが!!テメーやっぱり調子に乗ってんな!!」


 そう言うと大男は拳を大きく拳を振りかぶった。



 ーーードスッ


「がぁっ!!」

 次の瞬間、短い悲鳴と蹴りの音と共にナナシの正面にいたはずの大男はギルドの壁まで吹き飛んだ。


「……ぐぅぅ……なんだ今のは……」


 壁まで吹き飛び、壁に凭れ掛かる男が目を開くと大男は思わず口を閉じた。


 目の前にいたのはアルメリア王国第二王子ネザー・アルメリアだった。

 ネザーは壁に凭れ掛かる大男の顔のすぐ横に緑魔法で生成した剣を刃が男の顔に向くように突き刺している。


 当然といえば当然である、あれだけはっきりとナナシに喧嘩を売ってあれだけ大きく拳を振りかぶったその隙をネザーが見逃すわけがない。


 ただでさえすぐにでも登録を済ませて依頼を受けたいネザーにとってその大男とナナシのやり取りは無駄でしかないのだ。


「おい貴様、僕達は急いでいる。急いでギルドに登録して依頼を受けて魔物を殺したいのだ、それとも何か?貴様が僕に殺されてくれるのか?それならばこの喧嘩、続けようではないか」


 そう言うとネザーは壁に突き刺した剣を壁に刺したまま男の顔に近づけると大男の顔から血が流れる。


「……わ、悪かった!!もう邪魔はしない!!」


 大男はすぐに謝った。

 ネザーは深く溜息を吐くと壁刺した剣をそのままにしてナナシ達の元へ歩いて行った。


「ふん、他愛も骨もない奴だ。やはりバンディットとの戦いのような快感はそう得られぬな」

「……さすがネザー様です」

「む?僕などバンディットに比べれば可愛いものだぞ?貴様も一度バンディットと戦ってみるといい!そうだな!それは是非見てみたいものだ!」

「………遠慮しておきます」


 ナーガと少し話した後、ネザーはナナシに問い掛ける。


「怪我はないなバンディット」

「あぁ、それよりネザー。俺はアイツを殺すなとは言ってないぜ?」

「……くはは、おっとそうであったな、どんな殺し方が良いか言ってみよバンディット。貴様の望むままにあの男を殺してくれよう」


 ナナシとネザーの会話を聞き大男が震え出す。

 ネザーはギルドの床から木を生成し、その下の地面から鉄と土を生成すると数々の武器がネザーの足元に転がり出す。


「さぁどうするバンディット、時間もない事だ。さっさと首を落とすか?それとも心の臓が止まるまで胸を棍で叩きつけるか?槍で奴をトゲ達磨になるまで刺すのはどうだ?死ぬまで弓を撃ち、逃げる奴を追うのも一興であるな?」


 ネザーは剣と棍を持ち上げて大男の所へ再び向かう。

 周りの連中は黙り込み、大男は涙を流しながら震えている。

 ナーガは信じられないといった顔でメアリーを見る。

 しかしメアリーも目を閉じて体を揺らし、まだかなぁと言わんばかりの態度である。


「そこまでだ、アルメリア学園の生徒」


 そう言ってネザーの目の前に現れたのは大男以上の巨漢だった。

 転移を使ったのだろう。


「はじめまして、オレはこのギルドのマスターをしているゴリアテと言うものだ。すまないが騒ぎはそこまでにしてもらおう」


「はぁ、別に俺達から仕掛けたんじゃないからな。さっさと登録を済ますぞお前ら」

「………あ、はい」

「はぁい」


 メアリーとナーガはやっと終わったと思いながら登録に向かうナナシの後ろをついていく。


 しかしネザーは剣と棍を持ったままゴリアテの正面から動かない。

 そのまま10秒程ネザーとゴリアテは止まっていたが、ふむと納得したような声を出すとネザーは剣と棍を床に捨てた。


「分が悪いな、貴様ともいつか戦ってみたいものだ」


 そう言うとネザーもナナシの元へ歩いていく。

 どうやらゴリアテの力量を見定めていたようだ。


「ネザー、アイツ強いか?」

「うむ、かなりな。少なくともこの狭い場所であの距離での戦いでは僕に勝ち目はないな」


 2人は囁くように話し合っていた。


「ちっ、あの大男はムカついたから殺したかったとこだぜ」

「くはは、心配には及ばぬぞバンディットよ」


 ネザーがそう言うと大男はビクンと揺れると目から血を流し、口から血を吐きながら崩れ落ちた。

 周りの連中が急いで大男に駆け寄る。


「……何したんだお前」

「簡単な事だ、緑魔法で生成した剣に同じく緑魔法で毒を作って纏わせただけの事だ」

「………毒魔法には知識がいるんじゃなかったか?」

「バンディット、貴様はこの僕に知識がないとでも思っているのか?



 まぁ、僕は致死毒は生成出来ぬから死ぬ事はないだろう。だがかなり強力な麻痺毒だ。身体中の筋肉が痺れて収縮し二度と戦えはしない。これなら良いであろう?貴様も同じような事で緋剣殺しとか呼ばれておったしな」



 ネザーはいつものようにくはは、と笑うとナナシの横でギルドの登録用紙に筆を乗せるのだった。

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