赤子の恩返し
「赤ん坊って何食うんすかね?」
安心したのも束の間、見える範囲で見渡す限り20人ほどの山賊らしいが女は見当たらない。
ミルクなどがあるような場所でもなく、家畜などもいないだろう。
まだ歯も生えていないため、当然肉や野菜などは食べる事ができない。
「……街まで行ってテイムシープの乳でも盗むしかねえんじゃねえか?」
「テイムシープのミルクでいいなら外れの村に家畜として何匹かいたはずだ」
「あーじゃあボス、オレが誰か連れてちょっくら行ってくるわ」
「あぁ、頼むぜ」
……どうやら杞憂だったようだ。
それにしても山賊ってもんはもっとリーダーが偉そうにしていて部下は虐げられているくらいのものを想像していたがここの奴らはどうやら違うらしい。
リーダーはしっかりと周りに信頼されていて、周りの部下たちも彼がリーダーである事に安心しているのが見て取れる。
「んじゃ、オレらは待ちながら不味い酒でも飲もうじゃねえか!」
「そりゃあいいな!つまみに今日狩ってきたワイルドボアの子供もあるしな!」
「おいおいおい!!そりゃないぜ!?」
「冗談に決まってんだろ、なぁ?」
「……酒だけならいいんじゃねえか?」
「おい!!」
「ハハハ!冗談だっての!待ってっから早く行ってこいや」
「ったく……んじゃボス、行ってくらぁ」
「おう、村は大丈夫だろうが道中は気を付けろよ?」
「うっす!」
そう言って山賊の1人が3人ほどの仲間を連れてアジトから出て行った。
どうやら部下同士のいざこざなども無さそうだ。
「あぁあぁう」
「お?クソガキが一丁前にいってらっしゃいだとよ!」
「ほお?わかってんじゃねえかこのガキ!可愛がってやんねえとなあ!」
「その面で可愛がるなんて言葉使うなよ!泣き出したらどうすんだ」
「そりゃあお前らも一緒だなぁ!」
「ちげえねえや!!」
アジトの中で笑いが起きる。
ボスも少し顔を伏せがちにして笑っている。
もちろんいってらっしゃいなどもは言っていない。
俺は気に入らないと言ったのだ。
信頼できる部下を持つボスが。
安心できるリーダーを持つ部下が。
そして自分の居場所を持っているこいつらが。
俺が持っていないものばかり。
俺には信頼出来る部下も、安心できるリーダーもない。
こんな暖かい場所が自分の居場所だなど冗談ではない。
こいつらが俺を育て上げ、俺が成長した時には。
俺がリーダーも部下も居場所も全て壊して奪って捨ててやる。
ただの捻くれ者のように思われても仕方ない。
だがこれが俺なのだ。
だが名前だけは貰っておこう。
この世界で自分で名を名乗るには、違和感はあってはいけない。
この世界の人間に名を貰うのが1番だ。
俺が成長するまで壊さないでやる。
俺が成長するまで奪わないでやる。
俺が成長するまで捨てないでやる。
名前を貰った礼には丁度いいだろう。
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