XL∅
キクイチ
交差点
ここではないどこかの世界。
地球ではない地球のような惑星。
日本のような日本ではない国。
学生リョウ=ミツバヤシは、高校を卒業し、大学での新生活にむけて賃貸マンションに引っ越してきたばかりだ。
リョウの部屋は角部屋だった。
隣の部屋では、リョウと同じく、引越しで荷物が運ばれている最中だった。
引っ越し作業がひと段落付くと、隣の部屋の引っ越し作業が終わるのを見計らい、親に持たされた菓子折をもって、挨拶に行く。
出てきたのは、若くて美人の女性だった、年齢はよくわからなかったがリョウと大して離れていない感じだった。女性的ないい香りがリョウの男心をくすぐる。
「初めまして、隣に引っ越してきたばかりのリョウ=ミツバヤシと申します。
この春から大学生になります。これは親からもたされた菓子折です。
今後ともよろしくおねがします」
「初めまして、私はレイ=カツラギ。一応社会人ぽい感じ。
もう知ってると思うけど、私も引っ越してきたばかりなの。
大学生になるんだ? いいね。
私、女の一人暮らしだから、もしかしたらいろいろと助けてもらうことがあるかもしれないわね。
頼りにしてるね。これからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします。カツラギさん」
「下の名前で読んでね。苗字で呼ばれるの慣れてないから。私も下の名前で呼ばせてもらうね? リョウくん」
「はい、レイさん」
幸先の良い滑り出しに、気持ちが高揚するリョウ。
「そうだ、せっかくだから、うちで、お茶飲んで行かない?
ちょうどお茶の準備してたのよ」
「あ、はい、是非」
意外すぎる展開に、さらに高揚するリョウ。
部屋のに入ると、アロマを炊いてるのか、引っ越してきたばかりとは思えない、女性的な甘い香りがした。
家具や寝具、カーペットやカーテンまでもが水色で統一された、いかにも女性的な部屋だった。
小さなテーブルの前に座らされ、変わった模様が描かれたティーポットにお茶の準備をしてくれた。
甘い香りのお茶だった。
レイはポットの四方にキャンドルを立て火を付ける。
キャンドルからさらに甘い香りが匂い立つ。
それとともに、ティーポットの模様が薄く発光する。
「不思議ですね? どうなってるのですか?」
「内緒。簡単な種だけどね。雰囲気あるでしょ?」
「ええ、とっても」
ティーポットの模様が徐々に明るく発光しはじめる。
「そろそろかな」
同じく模様ついているティーカップを2つ取り出し、お茶を注ぐ。
ティーカップの模様がポットと同じく輝き出す。
「どうぞ」
「いただきます」
差し出されたティーカップを手にとって口に運ぶ。
それを見ながらレイもティーカップを口に運ぶ。
そして、10分ほどおしゃべりをする。
「私さ、一応社会人とは言ったけど水商売してるの。
明後日から新しい職場なんだ。
お互い頑張ろうね」
リョウが、ティーカップを手にとって口に運ぶ。
それを見ながらレイもティーカップを口に運ぶ。
「そうだったんですか」
リョウが、ティーカップを口に運んで飲み干す。
それを見ながらレイもティーカップを口に運んで飲み干す。
レイはにっこり笑いながら言う。
「ほんと、頑張りなよ、レイちゃん」
「は?」
次の瞬間、リョウは抗いきれない睡魔に襲われ、倒れ込んだ。
……
甘い香りがする。
レイの部屋の香りだ。
眠ってしまったらしい。
どこかで聞いたことがある様な若い男の声がする。
「レイちゃん、そろそろおきなよ」
「なにを……え?」
レイは、声を出して、驚く。
女性の声が自分の喉から出たのだ。
しかも髪が長くなっているのがわかった。
レイは、驚いて起き上がる。
胸が何かで締め付けられているのを感じた。
体を見下ろすと、胸が膨らんでいるのがわかった。
手足が華奢になり、ジーンズのお尻が妙に大きかった。
男の方を見る。
自分が……リョウがいた。
「レイちゃん、やっと起きたか。
お寝坊さんだね?
これからやることがたくさんあるから、時間がないよ?」
「どうなってるんですか? あなたレイさんですよね?」
「入れ替わってもらったの。
このチャンスを狙ってたんだ。
不動屋さん当たって、あの大学の新入生の引っ越し先探すの大変だったのだから」
「どういうことですか?」
「私さ、成績は超優秀でA判定だったんだけど、家の都合で大進学諦めなくちゃならなくてさ。
高校卒業後、水商売をはじめてお金貯めることにしたの。
でも、女子でいるのが昔から辛くてしかたなくてね。
男子として生きることにしたの。
それで、行きたかった学部に通う新入生と体を交換することにしたんだ」
「そんなの横暴ですよ、もどしてくださいよ」
「無理、戻せない。戻し方もわからない」
「さっきのお茶じゃないのですか?」
「入れ替わって起きたら消えちゃったよ?」
「そんな……」
「それにこの儀式はもうできない。
一度入れ替わったら完全固定されちゃうからね。
諦めなよ、レイちゃん。
責任とっていろいろ教えてあげるからさ。
だから隣に引っ越してきたんだよ?」
「責任取るって?」
「ちゃんとレイちゃんとして生きられるまでサポートする。
あとはレイちゃんの努力次第だよ。
そういうことだから、お互いの情報交換しよ?
時間ないんだよね。
〝俺〟、明後日、入学式だし。
レイちゃんも明後日仕事だよ?
いい子にしてたら、お嫁にもらってあげるからさ。
このままだと生活できなくなるよ?
俺はなんとかなると思うから別にいいけど?」
「……わかりました」
二人は情報交換を始めた。
「これで、リョウとして生活できるよ。
俺のことは〝リョウくん〟て呼んでよ。
困ったときはスマホに連絡入れるからよろしく。
それじゃ、レイちゃんの仕事のレクチャーしよっか。
生半可な気持ちじゃ務まらないからね?
頑張ってお金貯めれば、学生だってできる様になるだろうしさ」
「……わかりました」
リョウは、レイに、女子としての基本的なことのレクチャーを済ませ、実践させた。その次に、心得や作法やら業界での常識、接客の基本、1日のスケジュールなど、様々なことをたたき込んだ。
レイは女性の体に戸惑いながらも、リョウに従うしかなかった。
メイクの練習も徹底的にやらされた。
姿勢や所作も女性的になる様に強制された。
リョウを客にみたてたロールプレイも徹底的に行った。
わずか2日間だったが、どうにかサマになってきた。
「未経験でそこまでできれば大した物だよ。
これからも、ちゃんとサポートするから。
俺なりのお礼とけじめだしね」
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