第4話 仮ヒロインの正体は
「…そんなっ!…私、根の葉もない噂話なんかじゃなくて……。」
これは…仮ヒロインは、詰んだというべきかしら?…少なくとも
…うっ、寒っ!…お隣から冷気が!…強烈に冷たい…冷気が、漂って参ります…。恐る恐るお隣に目を向けますと、こ…怖っ!…
ところが…仮ヒロインさん、
「
「…!!……伯父さん…どうして…ここに…。」
私1人だけが、異様な冷気の漂うこの場を、どう止めようかと悩んでおりますと、どなたか知らない大人の男性が、大きな怒鳴り声を上げて、こちらに近づいて来られました。その男性の傍らには、この大学の事務員もおられます。
「今さっき、この大学から連絡をもらって来てみたら…。お前は…また塾の教室を抜け出しただけではなく、不合格だった大学に潜り込んで、一体何をしているんだ!…大学に落ちたのだから、本来ならば就活すべきだが、お前の親が泣きついて来たから、浪人生が通ううちの予備校で、面倒を見てやっているというのに……。私の妹の子供だから…姪っ子だからこそ、特別に引き受けたというのに。来年の受験も全て不合格ならば、来年は就職するという約束をしたことさえ、最早…忘れたのか?!…分かっているのか?…お前の今の成績のままならば、この大学どころかどこの大学も、合格出来ないぞ!」
「………。」
し~ん。仮ヒロインの伯父さまらしき人が現れて、仮ヒロインを叱っておられるのですが…。良かったのかしら?…この大学の大勢の生徒達の前で、その情報を漏らされても…?…仮ヒロイン…貴方、浪人生の立場で…この大学来られていたのですね?…普通ならば、悔しくて来られないと思うのですが……。堂々と入り込む暇があるのならば、受験勉強した方が有意義ですのに…。他の大学にまでも、印象が悪くなってしまいますわよ?…私学の大学合格の基準は、国公立大学とは異なり、勉強だけでは…ございませんのよ。特にこの大学の生徒は、有名な家柄の令息令嬢が大半を占めておりますから、その生徒達に危害を加えそうな受験生を、入学させる訳がございませんわね…。
…という出来事を経て、仮ヒロインは親戚の伯父さまに引き摺られるようにして、連れ出されて去って行かれます。その間ずっとこの食堂では、ほぼ全員の生徒皆さんが、仮ヒロインと伯父さまの遣り取りを、ただただ唖然として見つめておられましたわ。あれだけお怒りモードだった樹さんも、また彼に同調するかの如くお怒りだった岬さんも、いつの間にかお怒りがすっかりと消え失せ、目を点にしておられるご様子です。唯1人、麻衣沙だけが私と目線を交わして、目で会話されて来られましたけれども。
その後は何事もなかったかのように、正気に戻られた人々から動き始め、樹さんと岬さんも何事もなかったかのように、私達と昼食を取られたのでしたわ。
お2人は忙しいとのことで、食事が終わると立ち去られ、麻衣沙と私は別の場所に移動したのです。そうなのです。仮ヒロインへの今後の対策を、話し合う為に。
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「…ええっ?!……あの仮ヒロインは、正規のヒロインだったのですの?!」
「……はあ~。もしかしまして、ルルは…気が付かれておりませんでしたの?…『鮎莉』という名前は、ヒロインの初期設定の名前でしたのよ。」
「…言われてみれば、そうだったかもしれません。…私…確か、初期設定の名前から自分の前世の名前に、変えていました…かも……。」
「ああ、そうね。わたくしも、前世の名前に変更しておりましたわ。しかしながら、あのヒロインのご容姿は…酷かったですわねえ…。ゲームのヒロインはお化粧もしておりませんでしたし、服装もあのような派手なものではなかったですし…。それに…彼女の性格も、ゲームのヒロインとは似ても似つかないものですわ。あれは…きっと、わたくし達と同じ転生者ですわね。然も…性格の性悪タイプの…。」
私達2人は、とある一室に来ております。まだお昼休みに時間があった為、なるべく他人に聞かれない場所にと、移動しております。この大学には、貸し切りに出来る個室がありまして、私達令息令嬢は優先的に利用可能となっております。
それは勿論、寄付金の額に依る特別待遇なのですわ。ですから、寄付をしていない生徒は、使用する権利もございませんのよ。
個々でしたら完全な個室ですし、誰にも聞かれることはありませんわ。私達はよく利用しておりまして、今日も偶々でしたけれど予約してありましたのよ。予約は直ぐに埋まってしまいますから、本当に運が良かったですわ。
それはさて置き、仮ヒロインだと思っておりましたお人が、正規のヒロインだったとは…。まだ…信じられません。だって…あのヒロイン、この大学の受験に失敗して、別の大学に通うどころか、現在予備校に通う浪人生なんですよね?…頭が痛くなりそうですわ。但し、納得出来る部分も…ありますわね。道理で…入学式に来られない訳ですね…。予備校に行かされていたのでしょう…。親戚の伯父さまの予備校ですから、初めのうちは見張られていたのでは、ないのかしら?…漸く最近になり自由な時間が出来て、上手く抜け出しては、この大学に入り込んでおられた、というところでしょうね…。
そうか…。転生者ならば、次のイベントもよくご存じですわねえ。道理で、あの忘れ物の出逢いイベントを、強行された訳ですね…。彼女は…この大学生ではないので、知らなかったのでしょうね。2年生の攻略対象が、この大学に通っておりませんことに。別の大学かもしれない、とも思わなかった…ということでしょうね…。ある意味…不憫ですよねえ。
仮ヒロインの正体が、正規ヒロインだと証明されたならば、今迄あった出来事を、麻衣沙にもお伝えせねばなりません。こうして私は、やっと先日からの出来事を、彼女にご報告した次第です。流石に麻衣沙には、呆れられてしまいましたけれど。
如何やら、麻衣沙は仮ヒロインを見た瞬間に、彼女が正規ヒロインだと気が付かれたご様子です。派手なお化粧で衣装ですのに、それでもゲームのヒロインのお顔だと理解出来たそうで。…お見事です。私は見事に…騙されましたよ。
「特別に勉強などしなくとも、この大学に合格できると、過信されていらしたのでしょう。攻略対象者全員が、この学校に通っているものと、信じておられるのでしょう。他の攻略対象者の存在も、確かめた方が宜しいかもしれませんわ。警告を促せるものならば、促した方が良いのかもしれません。」
「他にも、転生者がおられると…言われますの?」
「ええ。この大学を避けた理由は、他にも考えられますが、一番濃厚な可能性であれば、ご本人が転生者か…或いは、悪役令嬢が転生者か…と、考えられます。」
「…なるほど。攻略対象ごとに、悪役令嬢若しくは、ライバル令嬢がおられましたわね。一般的に考えるのならば、その悪役令嬢達が転生者、という可能性が大きいですわねえ。」
「ルルも、そうお思いになるのね?…では、転生者同士であれば、こういうお話も…早いですわよね?」
麻衣沙が仰る通り、ヒロインは過信し過ぎてしまったのでしょう。必要な勉強もせずに、大学受験に合格出来るのは、天才ぐらいでしてよ。彼女はそういう天才でもなく、勉強を怠ったのでしょう。お馬鹿さんとしか…言いようがありませんわね。そのような怠慢なお人が、樹さんや岬さんのお嫁さんに、誰からの反対もなく、なれる訳もありませんでしょうに…。彼らのお家柄は、誰もが知っている大財閥なのですのよ。一般人が見染められて結婚するというのは、夢のお話というぐらい大変ですし、またその後はどうされるおつもりなのかしら?
奥様としてパーティに顔を出すだけ、としか思っておられないのでは?…そうお思いでしたら、大間違いですのよ。大財閥の奥様も、顔つなぎの付き合いとかございまして、お付き合いが大変なのですのよ。もし、その場で失敗しようものならば、一気にお付き合いが無くなりまして、会社の方の提携などにも影響がある場合も、ございますのよ。
きっと、お知りにならないのでしょうね?…家柄同士のお付き合いが、
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今回も、主人公視点となります。出逢いイベントからの続きとなっています。
仮ヒロイン=正規ヒロイン、だと判明しました。容姿がケバいのは、お化粧を濃くし過ぎなのと、派手過ぎる服装で、本来の可愛い容姿がケバケバしいものに変わってしまった模様です。
入学式に出席しなかった本当の理由は、別の大学で来られなかった訳ではなく、浪人生として予備校で勉強させられていたからでした。本来は別の大学に行かせる予定でしたが、浪人生に変更しました。その方が抜け出せてイベント起こせ、塾講師が連れ戻しに来るという、イベントの邪魔が入って良いかも、と。
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