不思議

 女の子達三人がベッドの端に並んで座り、僕はデスクチェアに腰かける。三人に見つめられるスタイルは緊張するが、僕は誰の隣にもならない方がいいんだろう。

 おしゃべりというが、まずは何から話そうか。考えていると、雪村が先に口を開く。


「風見さんはこの状況が不満らしいけれど、私はどこかホッとしてる。

 これは私の身勝手なイメージなんだけれど、秋月君が色んな女の子達とイチャイチャしているのは、何か違うと思ってしまう。秋月君は、あまり日の当たらないところで、ひっそりと過ごしている方が映える。

 孤独を友として過ごすような静かな雰囲気に惹かれて、私はあんな打ち明け話をした面もある。この人なら私の声を聞いてくれそうだ、って」


 その言葉に、翼と葵も頷いた。


「確かに、あたしもそうですね。陽気で幸せオーラを発散している人には、あんな相談をしようとは思いません。光輝さんには、独りなのにひねくれていない、孤高のような雰囲気がありました。そこに魅力を感じて、この人ならあたしを導いてくれるかもしれないと思えたんです」

「……そうなんだよね。わたしも、ヤマト君より光輝君に惹かれたのは、光輝君の少し寂しげな雰囲気が好きだったから」

「っていうか、そもそも清水さんはどうして光輝さんが好きなんですか? あたしと雪村さんみたいに、何か熱いメッセージを受け取ったわけでもないでしょう?」

「それはないよ。でも……わたしは、初めて同年代の男の子に、人間の美しさみたいなものを感じたよ。こんな人がちゃんと世の中にはいるんだなぁ、って感心して、もっと触れていたくなった」


 そのときを思い出しているのか、葵がじんわりと微笑んで目を細める。

 僕を思って、こんな表情をしてくれる人がいる。嬉しさから落ち着かなくなりながら、続きを聞く。


「光輝君に告白したときには、まだ自分の気持ちの整理がついてなかった。けど、今はもう少しわかる。ずっと探し求めていた綺麗なもの、宝物か何かを見つけた気分だったのかな」

「……そうですか。ま、わかりますよ。世の中、人間だけが淀んでます。その中で、光輝さんは澄んで見えます」

「うん。そんな感じ。きっと、わたし達は似たようなところに惹かれてるんだろうね」

「……でしょうね。この良さがわかる者同士という意味では、親近感もありますよ。ただ、あたしだけわかってる、という感覚になれないのは残念です」


 翼は憮然とした表情で溜息を一つ。逆に、葵はおかしそうに笑った。


「雪村さんに言われて気づいたけど、わたしも、光輝君の今の雰囲気を大事にしたいな」

「光輝さんが陽気なパリピになってしまったら、配信の視聴者層もだいぶ変わるでしょうね。落胆する人も多そうです」

「こういう意味でも、しばらく光輝君とは距離感があるといいのかもね」

「でも、そうこうするうちに第四、第五の女の子が現れるかもですよ」

「仕方ないよ。無理矢理関係を進めたって、いつか破綻するだろうし」


 二人もある程度気持ちの整理がついたのか、ふぅー、と溜息を一つ。

 それから、雪村が改めて僕に問いかける。


「ちなみに、少し不思議なのだけれど、どうして秋月君はそんな雰囲気の人になったのかな? 光輝君は優秀な人のはずなのに、自信に満ちている感じはない。能力と雰囲気がちぐはぐで、変な感じ」


 その言葉に、翼と葵も同調。


「そうですね。あたしも不思議です」

「言われてみればそうだね。どんな育ちをしたらこうなるんだろ?」


 三人に見つめられて、どうも何か話さなければならない雰囲気だ。でも、何故自分が今のようになったのかなんて、自分でもはっきりわかることではない。とはいえ、そんなのわからないよ、では流石に申し訳ない。

 頭を整理しつつ、口を開く。


「……答えになるかはわからないけど、僕はずっと、大和に対して劣等感を抱いてる。小さい頃から大和はいつだって僕より優秀で、いつも僕より先に行ってしまうんだ」


 僕が話し始めると、三人は口をはさまず清聴モード。少し、配信と似てるかな、と思う。

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