打ち明け話
『それは、あたしに対する遠回しな告白ということで間違いないですよね? 嬉しいです。あたしも好きです』
「……は?」
休み時間に、翼からの返事を確認。僕が告白したみたいになっているが、何故そうなった?
僕が戸惑っていると、隣の葵が僕のスマホを覗きこむ。
「……光輝君、自分を狙ってる女の子に対して、そのメッセージは軽率じゃないかな? まあ、風見さんも、本当はそうじゃないとわかっていながらあえてこんなメッセージを送ってるんだろうけどさ」
「あえて、これを? どういうこと?」
「既成事実として押しきるみたいな? 告白してくれたんだから付き合うよね? って迫ろうとしてるんでしょ。油断ならない子だなぁ」
「どうすればいいんだろう……?」
情けなくも尋ねる僕に、葵は嫌な顔一つしない。
「これも経験と思って、次は気を付けてね。そうだな……ちょっと貸して」
葵が即座に文面を考える。恋愛経験は僕と同様のはずだが、女子というのは色々と機転が利くのだろう。
『そんな強引な迫り方をしても無駄だよ。わたしがついてるからね。光輝君は、好きな人にははっきり好きっていうタイプなんだから、あのメッセージで告白なんて勘違いしてもらっちゃ困るよ。
本当に光輝君が好きなら、そんな強引なやり方じゃなくて、きちんと光輝君の気持ちに寄り添うべきじゃないのかな? 無理矢理好きって言わせて本当に嬉しい? 清水より』
「こんなもんかな? 問題ある?」
「いや、ない」
「じゃ、送信、っと」
「……ありがとう。頼もしいな」
「でしょー? わたしと付き合う気になった?」
また声を潜めてはいるが、近くにいる人には聞こえるだろう。それでも、葵は恥ずかしがるそぶりはない。
僕達が仲良くしているのを一部の人が気にしているのはわかっている。何かとぐちぐち呟いているのも聞こえている。僕もあまりそういうのを気にしない性格だが、葵も同じかもしれない。
「……教室でも平気でそういうこと言えるんだな」
「もう告白したし、わたし、隠す気ないよ? あ、もしかして、学校ではただのクラスメイトだけど、外ではこっそり付き合ってるとかの方が良かった?」
「……どっちがいいとも言えないな」
「なら、いいよね」
「まあ、ね。ただ、正直言うと、付き合う気は昨日の時点からあるんだよ。あとは僕の自信のなさとかの問題で……」
「どういうこと?」
「……あとで話すよ。教室で話すことでもないし」
「わかった。何でも聞くよ? 流石に、実は女の子を殴ることに喜びを覚える暴力性があるからそれを抑えられるか心配で、とか言われると困るけど」
「それはない。そもそも人を傷つけるのは嫌なんだ」
「わかってるよ。だから、風見さんも突き放せないんだもんね。その辺はある程度変えるべきだと思うけど、急には無理だろうし、少しずつ変えていけばいいんじゃないかな?」
「うん……」
葵の包容力に、救われる。
自信のなさを忘れられるなら、葵と付き合うことにためらいはない。葵といられると、本当に幸せだと思う。
それから、勉強して、おしゃべりをして、時間は過ぎる。
昼休みになったら翼が突撃してくるんではないかとも思ったが、そんなこともなかった。意外とおとなしい。
放課後になっても特に翼から接触はなく、僕は葵と一緒に学校を後にする。葵は他の友達をほったらかしでいいのかな、とも思ったが、葵は問題ないと言う。なんと説明しているかは聞いていない。
「それで、どういうことなの? 自信、ないの?」
道すがら、葵が尋ねてくる。僕は覚悟を決めて、ぼそぼそと心情を打ち明ける。
「うん。葵さんは僕を評価するけれど、僕は自分にそれだけの価値があるとは思えていない。他人との交流が少ないからかな。知識とかはある程度あっても、他人に自分がどう映るのかはよくわからない。……付き合っていく中で、僕の小ささとか薄っぺらさを知られて、幻滅されるのが怖い」
「……その心配は的はずれだと思うけどな。光輝君が薄いなら、わたしなんて本当にティッシュくらいぺらっぺらだよ」
「そうかな……」
「そうだよ。でも、自信を持てないっていうのも、時間をかけないと変わらないよね。大丈夫、わたしは光輝君の実態を知って、幻滅なんてしない自信あるから。そりゃ完璧なんかじゃないと思う。でも、それでいいんだよ。わたしだって完璧じゃない。お互いに成長していけばいいじゃん」
「……そっか。そうかもな」
「光輝君が、年下の女の子にたじたじになってるのとかも、わたしはそんなに気にしてないよ。他人との交流は戸惑うことたくさんあると思うけど、わたしと一緒に世界を広げていこうよ。ね?」
その笑顔が眩しすぎて、目を逸らす。本の世界ではわからない、人の温かさに初めて触れた気分だった。
別に、今まで他人に虐げられてきたわけではない。弟も親も、僕を大事に思ってくれている。それでも初めてと感じるのは、葵が他人だからだろう。家族補正のない優しさが、今まで知らなかった温もりを感じさせてくれた。
これは恋なのか? と疑問に思う部分もある。今まで誰かを本気で好きになったことはないから、まだはっきりとはわからない。でも、このもやっとした気持ちも、一緒にはっきりさせていければいいのかもしれない。
照れ臭さを隠し、話題を変えて話しているうちに駅につく。葵がまた僕の家に来たいというので、承諾。家にはきっとまた誰もいないことだろう。
二人でゆっくり話をできたら、僕からきちんと、付き合おう、と伝えよう。
そう思っていたのだけれど。
「光輝さん! 良かった、間に合いました!」
駅の改札を抜けたところで、翼が背後から僕に駆け寄ってきた。
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