護衛艦やまと

天草ミカサ

第壱幕 コードネームミラージュ

 『戦時日本のシンボルであった大和は護衛艦に姿を変え、今ここに「やまと」としてドックに入っています。46センチ砲はいまだ健在です。両舷の高角砲や高角機銃群は高性能20ミリ機関砲、シーラムに姿を変えています。前後甲板には計240セルものVLS垂直発射装置が搭載されています。果たして、日本初となる「原子力護衛艦」は日本を守る盾となり得るのか。そもそも現代日本に「やまと」は必要なのか原子力は必要なのか。その真偽が問われるでしょう。以上、海上自衛隊呉造船場からお送りしました。』

 熊沢はテレビを消すとリモコンを放り投げ深いため息を吐いた。



 尖閣諸島北小島上空 海上保安庁回転翼航空機らいちょう

 「上陸者確認!機長、情報通り3人です。銃火器類は所持していなさそうですね」

 「特別警備隊の皆さん、上陸準備お願いします!」

 「おう!」

 「っとに、どうか漁師であってくれよ。工作員だと厄介だ」

 「そうですね……」

 副機長がもう一度外を確認すると、上陸者は大きく五星紅旗を振っていた。

 「最悪だ!エンジンは切るな!」

 「はっ!」

 機長は特別警備隊員たちに上陸者が中国人工作員の可能性が高い事を告げる。

 「着陸態勢に入る!」

 らいちょうは3人に中国人上陸者に前に降りた。扉が勢い良く開き、特別警備隊の隊員が勢い良く飛び出していく。

 盾を持った隊員が先頭に立ち、その後ろから隊長が中国語で交渉を初める。

 「我々は日本の海上保安庁です。我々の指示に従って下さい!」

 「ここは我が国の領土だ!母国の救助を待つ!」


 尖閣諸島中国人上陸第1報から1時間後、第11管区の各港から海上保安庁の巡視船が応援のため出航。海上自衛隊佐世保基地からは「DDG176ちょうかい」、「DD108あけぼの」が調査目的という名目で出航していた。

「遭難した中国人が五星紅旗を振り回すか。工作員だな」

ちょうかい艦長鳩羽均はとばひとし1等海佐は報告を受けると艦橋の艦長専用椅子に腰をかけた。

 「これは長引くな……」

 「艦長!那覇の航空早期警戒機より入電!本日0500マルゴーマルマル上海シャンハイ基地から出航した中国艦艇3隻が琉球海域に接近中!」

 「なんだと!」

 鳩羽は艦橋を飛び出し、CICに駆け込んだ。

 「中国艦艇は何処に居る!」

 「はっ、現在、北緯32度、東経東経123度の位置!尖閣諸島の西北約300キロを南下中!あと数時間で我が排他的経済水域に入ります!」

 「上海からと言うことは東海艦隊の『空母山東』が出てきやがったか。尖閣周辺には海警隊がいるちゅうのにどういうつもりだ」



東京 首相官邸

 「空母艦隊は明らかに尖閣に向かっております!」

 「中国は何を考えている!」

 「中国大使館の返答は変わらないのか。」

 熊沢は静かに問いかけた。

 「はっ。中国政府は自国領土に漂着した自国民を救助する意向であると。尖閣は歴史的に見て、我が国の領土であると繰り返しているばかりで……」

 「外務大臣、米政府の反応はどうだ。」

 「はっ、第7艦隊は現在インド洋にて展開中ではありますが、極東、日本の領土問題に関しては積極的に関与はせずという意向であると」

 「やはりな。当然といえば当然か」

 副総理の柴田が腕を組む。

 「外務大臣、引き続き中国政府に対し、我が領海に侵入する事は絶対に認めないと通告し続けてくれ」

 「統合幕僚長、現場には不測の事態を招かぬよう、くれぐれも慎重な行動を取るよう指示を」

 「はい!」



翌11月23日

 海上保安庁巡視船と中国海警局警備艇が接触する事故が発生。これを受け、空母山東より航空機が発艦。ちょうかいに対し威嚇飛行を行った。

 熊沢内閣は事態の重大性を考慮し、中国人上陸者の引渡しを決定。中国政府はこの申し入れを受け入れ、上陸者3名の身柄は中国海警局警備艇に引き渡された。これにより中国海軍空母山東は上海基地に帰投。その夜政府の発表によりメディア各社は現政府の危機管理態勢の甘さを突く声と領土問題を巡り、更なる問題に発展するのではという日中両国の軍事衝突を懸念する声で溢れた。


 「総理、ミラージュ計画は再来年の冬を完成予定としていたが、それでは間に合わない。各方面を焚きつけて来年の夏には就役せんと!」

 「……」

 「数奇な事に向こうが動いてくれたんだ。国民は必ず納得する!俺たちがガキの頃に立てた夢が実現するんだ!」

 「ミラージュが極東海域の抑止力になるのか本当に分からなくなってきた。」

 「どうしたんだよ、熊沢らしくない!もはやアジアの海はアメリカにはもう頼れない!日本が軍備を拡大して米海軍の役割を担わねばならんと、そう言ったのは熊沢じゃないか!布石として、『いずも型護衛艦』の空母化も済んで3番艦ももう完成しているんだ!」

 福永官房長官は机を叩いた。

 「……。分かっている。ミラージュの誕生は来年の秋だ。」

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