君を守る為、俺は強くなる
第一章
揺らぎ始めた居場所
―――
俺、仲本亘は最近考えている事がある。俺にとって『STAR』という存在について。……いや、辻村巧海という存在が俺にとってどういうものであるかを……
『STAR』というのは俺が所属するバンドの事だ。俺は一応ボーカルを任せられていて、他に四人のメンバーがいる。そして辻村はギター担当で俺の幼馴染だ。
バンドを結成したのは今から十年前で四年間のインディーズ活動を経て、六年前にデビューを果たした。有り難い事にデビュー曲を始めとして今まで出したほとんどの曲がそれなりに売れて、大晦日の国民的歌番組に五年連続で出場。端から見れば順風満帆な日々を送っていると思われているだろうが、俺の心は灰色だ。
俺と辻村、そして他の三人のメンバーは出会ってからもう二十年は経つ。共に色んな事を感じ、色んな事を見て、聞いて、様々な感情や気持ちを共有してきた。
俺にとって『STAR』の存在は心底安心できるとても大切なものであり、自分の心の居場所だった。
しかし、最近その居場所が壊れ始めている。心安らぐ場所だったはずがいつからか心が落ち着かない場所になってしまった。
ずっと変わらないものだと思っていた。俺にとっての大切な場所。
いつからだったのだろう……?俺の気持ちが揺らぎ始めたのは……
―――
一番最初に異変を感じたのは、辻村に彼女が出来たというのを聞かされた時だった。俺が一人で控え室にいたところに息急き切って飛び込んできたマネージャーから、辻村に彼女がいてそれが一部のマスコミに漏れた、という話を聞いた時。冗談じゃなく目が飛び出しそうになった。
椅子を蹴る勢いで立ち上がってマネージャーに詰め寄った。
「どういう事だよ!」
「だから辻村さんに彼女がっ……」
「んな事わかってんだよ!あいつに彼女がいるなんて初めて聞いたぞ。しかもそれがマスコミに漏れた?ふざけんじゃねぇ!」
思わず掴みかかる。マネージャーは後ずさりながら、滅多に怒らない俺に驚いているようだった。
「……全員集めろ。」
「は……?」
「メンバー全員集めろっつってんだよ!」
「は、はい!」
マネージャーは飛び上がるように背筋を伸ばすとそのまま出ていった。
「……はぁ~……」
一人になった部屋で溜め息をつく。ついさっきまで座っていた椅子に逆戻りすると、頭を抱えた。
「くそっ……!」
何に対して怒っているのか、その時の俺は何もわかっていなかった。
そう、これから俺達がどうなっていくのか。俺には何もわからなかった……
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