第159話 セオの心配とリアムの頭痛

「ララ、絶対に約束だよ! 一人で勝手に動き回らない事、それからリアム達から離れない事! いい分かった?!」


 セオからの何度目かの注意を聞きながら、私は苦笑いをして頷いた。

 今日はリアム達と傭兵の面接の為に商業ギルドへ行くため、私の勝手な行動を心配するセオのお小言が朝から……いや、2、3日前から続いている。今日だけでも既に3回目だ。


 セオは受験勉強があるので一緒に来ることが出来ないため、私の事がとても心配の様だ。

 昨日の夜もリアムに通信魔道具を使って連絡をして、私から目を話さないようにと何度もお願いをしていた。

 流石に心配を有難いと感じている私でさえ、ちょっと大げさでは? と思うぐらいである、リアム達スター商会の面々も声の様子で、苦笑いを浮かべているであろうことは良く分かった。


 でもアダルヘルムだけは違う様で、セオ側の気持ちの様だった。

 やはりセオがいないならララ様を行かせるべきではないのではとか、受験勉強を休んでセオを付き添わさせましょうかと言っていたのだが、既に店の増築作業で何日も勉強を休ませたので、それは私が反対をした。

 そして傭兵募集を言い出した会頭の私が面接に行かなくてどうするんだと、何とか二人を説得して渋々ながら似た者同士の子弟に納得してもらったのだった。


 転移部屋まで向かう廊下でも何度も同じセリフを言うセオに、子供たちでさえも皆苦笑いを浮かべている。流石に心配し過ぎだと幼い子でさえ思っているようであった。


「セオ―、幾らなんでも心配し過ぎだぜ。ララ様だって武術も剣術も習ってるんだ、そこまで心配いらないだろー」


 マトヴィルタイプのルイがセオの心配性に呆れて呑気な声で口を挟んできた。周りの子供たちも同じ考えだったのか、クスリとルイの言葉を聞いて笑っていた。


 でもセオがルイを一睨みすると、皆真っ青な顔になった。特にルイは練習前に余計なことを言ってしまったかもと、誰よりも真っ青な顔をしていて、今日の練習が厳しくなると思ったのか、喉をごくりと鳴らしていたのだった。


 セオは お前たち分かってないなー という風に首を横に振ると、大きなため息をついた。


「あのねー、ルイもリタもブライスもアリスもララと出会ったばかりだから良く分かってないかもしれないけどね――」


 セオはそう言うと立ち止まって腰に手を当て、子供たちに向かって話し出した。私はセオの注意が子供たちに向かってホッとしたが、子供たちはしゅんと小さくなってしまった。


 そこからセオによる私のこれまでの武勇伝? が語られ始めた。真夜中に屋敷を抜け出しディープウッズの森へ行った事。


(それはセオを助けに……)


 魔道具で散々屋敷を壊してきたこと。


(それはほぼマトヴィル)


 癒し爆弾を空に打ち上げた事。


(それは魔法の初心者の失敗だから……)


 そして大人たちに威圧を掛けて喧嘩を売った事。


(それは無意識だし、わざとじゃないし……)


 そしてスラムに散歩と言って出かけようとした事。

 

(ちゃんとセオと一緒だったし……)


 など数々の話を子供たちに聞かせると、子供たちもそれでは仕方ないかもと、セオを同情するような目で見て、まるで私を危険な物でも見る様な目で見てきたのだった。


 私は勿論心で言い訳はしても本当に口にすることは無く、大人しく黙って話を聞いていたのだった。


「と、に、か、く! ララは今日は普段の何十倍も大人しくしてね! リアムの言うことを絶対に聞くように!」

「はい……分かりました……」


 私の何度目かの返事を聞いてセオは頷いていた。子供たちも心配そうに私の事を見ていたので、絶対に無茶はしませんと皆の前でセオに約束したのであった。


 何とかセオとルイと分かれて転移し、リタ達3人を図書室へと送り、他の子供たちともロージーとも挨拶を済ませると、私はやっと自由になり、深呼吸をしてリアムの執務室へと向かった。


 まさかスター商会の外へセオなしで出ると言うだけで、セオがあんなに心配するとは思ってはおらず、この2、3日ずっと肩身が狭い思いをしていたのだ。やっと羽を伸ばすことが出来ることに、ちょっと浮かれた私であった。


 リアムの執務室では新しく働きだした双子のグレアムとギセラも含めて、皆忙しそうに働いていた。新しく二人も人が増えても毎日忙しいのは変わらない様で


 リアム達って仕事が多くて大変そうだなー


 とぼんやり考えていた私であった。


 勿論その原因のほぼすべてが私なのだが、そんな事には全く気が付かない私なのであった。


「よう、ララ来たか」


 リアムは私に気が付くと、今日の面接には行かないイライジャやローガンに指示を出し、私が座るソファへとニコニコしながらやって来た。朝から機嫌がいいリアムを不思議に思ったが特に口を挟むことはしなかった。


「ララ、お前セオに散々注意されたんだろう?」


 リアムはニヤニヤと笑いながら私の頭を撫でた。セオが私の事を注意したのが嬉しくて、朝からご機嫌だったようだ。

 私の事を恋敵だと勘違いしているリアムならではの理由に、笑うしか無かった。


「お前もこれで少しは自分の行動を反省しただろう?」


 私の肩を抱きながらニヤニヤと笑うリアムに、小学生男子みたいだなと思いながらも、変にライバル意識を持たれたくないので賢く黙って頷いておいた。

 大人しくしている私を見て、リアムの顔は満足そうな表情になっていた。そしてリアムの後ろではランスが成人男性とは思えないリアムの行動に、頭を抱えていたのだった。


 私はご機嫌なリアムを見て研究所組の新しいメンバーであるジュール、エタン、リリアンの作ったパックやボディークリームなどの新商品を魔法鞄から出した。これでリアムのご機嫌はもっと良くなるだろうと思ったのだが、一つ商品がテーブルに増えてい行く程に、どんどん青い顔になっていったのだった。


 そして何故か後ろで仕事をしていた他のメンバーも、仕事の手を止めリアムと同じ様な顔色になっていったのだった。


「「これが……皆さんが言っていた永遠に仕事が減ることが無いという……ララ様行使……恐ろしい……」」


 双子が何かをポツリと呟いていたようだったが、私は商品を出すことに専念していたため聞こえなかった。


「リアムこれがジュール、エタン、リリアンの作った商品です。宜しくお願いしますね」


 リアムは先程までの ”チャラいお兄さん” みたいな態度とは別人になり、商品を手に取るとすぐに執務室に居る皆へと指示を出し始めた。

 いつもこうならカッコいいのにと思いながら、私はスター商会の既にある商品を、前世で言う試供品サイズにした、一回使い切りにしたものを次々と机に出していった。


 既に販売している化粧品類全てを、ビルとカイにお願いして試供品サイズにしたので、かなりの種類と数があり、魔法鞄から全部出すのも一苦労だった。


 魔法鞄に入っていた試供品を全種類出し終えて、リアム達の方へと顔を向けると、ソファ用の応接テーブルが試供品で山盛りになっているのを見て、皆真っ青な顔になって固まっていたのだった。


「……ララ……それは……なんだ……?」


 リアムが試供品を指さしながら私に聞いてきた、今ある商品の試供品なのにリアムは何をそんなに驚いているのだろうと思ったのだが、形が違うからきっと新商品が山盛りだと勘違いしたのだろうと思って、安心させるように笑顔で説明を始めた私であった。


「これはビルとカイに頼んで作って貰った、スター・ブティック・ペコラのオープンの日にお客様に配る試供品だよ」

「……試供品……配る……」


 片言になったリアムに頷いて私は話を続けた。


「もう既に販売している商品の試供品だから、商品登録は大丈夫でしょ? あ、そうだ、ちょっとスター・ブティック・ペコラに行って、残りの試供品をニカ達に渡してくるね」


 リアム達もまだ仕事中だし、商業ギルドへ行くにはまだ時間もある。面接後にスター・ブティック・ペコラに行こうと思っていたのだが、今のうちにニカノール達に試供品を渡して来ようと私は思いついたのだ。

 だがそれをリアムに腕を掴まれて止められた。先程までとは別人の様なとっても怖い顔になっているが、どうしたのだろうか?


「ララ……それは後でイライジャにでも頼むから……こっちの魔法袋へと移しておいてくれ」

「えっ? 良いの? 皆忙しいんでしょ?」

「大丈夫だ……」


 リアムにそう言われ私は予備の魔法袋へせっせと試供品の在庫を魔法鞄から移動させた。

 リアム達が私から目を離すと思い付きで次から次へと商品を作ってくる可能性がある為、目に入る場所に居させようと思っている事になど気付きもしなかった。

 そして試供品で販売しないとしても、スター商会の物だという登録が必要だとは全く知らず、スター・ブティック・ペコラ開店前に、沢山の仕事をリアム達に与えたことに、全く気が付かない私なのであった。


「そう言えばリアムお兄さんの事はどうなったの?」


 私も魔法袋へと試供品を移すという仕事をしながら、急にとっても忙しそうになったリアムに話しかけた。

 何でも先日リアムのお兄さんであるロイドから、リアム宛に手紙が届き、ローガンを首にしたことへの嫌味が散々書かれてあったそうだ。

 そしてローガンがここへ勤め出したことを知らないロイドは、お前のせいでローガンが行方知れずだと怒っているらしく、その為リアムが勝手なことをしでかさない様にするためという理由で、次男のティボールドをウエルス邸に送ってよこすという事だった。


 リアムはもう自立して別の店を立ち上げている事はロイドも知っているはずなのに、相変わらずリアムの事を下に見て、自分の言う事を聞くのが当たり前だと思っているロイドの勝手な態度に、リアムは嫌気がさしているようでもあった。


「まあ、ティボールドはボケーっとしているからな、俺がウエルス家の屋敷から通えば、特に問題は無いだろう……」


 ロイドはティボールドを自分の偵察として送り込んで来ようとしている様だが、リアムはあれ程偵察に向かない人間はいないと言って笑っていた。

 でもティボールド本人が害は無いとして、それに付いてくる人はどうなのかと聞いてみたら、リアムとランスの顔つきが急に変わった。


「そうか……そうだよな……護衛や下僕は兄貴の犬の可能性もあるよな……」

「確かにティボールド様には問題が無くとも、付いてくるものが危険な可能性は十分にあり得ますね……忙しさのあまり失念しておりました」


 ランスは私としたことが……と言って額に手を当てていた。開店前でこれだけ忙しければそれもしょうがない事だと、私はランスが気の毒になった。


「ジョン、悪いがお前も残って今の事をパーカーやベルトランドと話し合ってみてくれるか? 前もって誰が来るのか聞きだしておいてもらえると助かる」

「はい、畏まりました」


 ジョンが今日は一緒に行かないなら、私がジョンの代わりにリアムをお世話してあげないとなーとぼんやり考えていると、リアムが私に話しかけて来た。


「ララ、済まないな、俺の馬鹿兄貴たちのせいで嫌な思いをさせて……」


 リアムは申し訳なさそうな顔を私に向けてきた。しょんぼりとしてしまい、朝あった時とは別人の様だ。どうやったらリアムが元気になるかな? と考えた私は、良いことを思いついたのだった。


「そうだよ! スター・リュミエール・リストランテの開店にリアムの家族も呼べばいいんだよ!」

「はっ?」

「リアムがどれだけ頑張っているか【授業参観】の様に見て貰えれば、流石にお兄さんも自分との違いに納得して手を出さなくなるんじゃない?」

「いやいやいや、なんで呼ぼうとしてんだよ、関わらないのが一番なんだぞ!」

「でもそれじゃあいつまで経ってもリアムに敵対心持ったままでしょ? そんなの面倒じゃない? あ、何ならディープウッズの名前を出して――」

「却下だ!」

「えっ? なんで?」

「そんな事をしたらウエルス商会まで、ディープウッズと繋がりが有ると勝手に言い出して問題になるぞ!」

「えっ? そうなの? 何でだろうねー」

「何でだろうねー じゃない! いいか、ララ、お前はなーもう少し警戒ってものを――」


 こうして今度はリアムの説教が始まったのであった。朝から散々セオの説教を聞いてうんざりしていた私は、遮断の魔法でも使おうかなと思ったが、これ以上リアムを怒らせないために、大人しく話を聞き続けたのであった。


 はうー……私ののびのび時間(タイム)は終わった……


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