第145話 閑話17 合コン? お見合い? パーティー?

「リアム、【合コン】やらない?」

「ごうこん? なんだそれ?」


 リアムの執務室へ行き、甘味王リアム様に大好きなケーキを差し出しながら、合コンの企画を提案してみた。餌で釣って少しでもリアムの機嫌を良くする根回しは完璧だ。イチゴのショートケーキを目の前にしたリアムの表情は緩みっぱなしである。私の提案が通ることは容易いであろう。ニヤリ。


 何故なら裏のボスであるランスには既に話を通してあるからだ。お年頃のリアムがいつまでも独り身な為、スター商会にはお見合いを求める書状が絶えない状態だ。それに断りの手紙を送る事までが仕事の範囲に含まれている。

 リアムに婚約者でもできればそんな仕事から解放されるのだ、人材が少ないスター商会にとって仕事が一つでも減ることはとても有難い事でもあった。


 しかしランスは果たしてリアムがその場に行きたがるかは分からないと言った。それとなくだがリアムには好きな人がいる様な事を、ランスは私に匂わせて来たのだった。


 ふっふっふ……ランスくん、リアムがセオに首ったけな事はこのララ様はご存じなのですよ。ニヤリ。


 勿論リアムのトップシークレットであろう ”セオへの恋心” の話はランスにはしなかったが、そこは私が上手にリアムを誘導する事を約束して、ランスの協力は得られたのであった。


「まあ……無駄なあがきかもしれませんが、リアム様も少し他の女性に目を向ける機会を持つことは良いことだと思いますので……」


 そう言ってランスは私に意味深に微笑んできたのだった、もしかしたらランスもリアムの気持ちに気が付いているのかも知れないと、その表情を見て同情してしまった私であった。


 主(リアム)の子供を見たいランス的には、恋の相手がセオでは複雑だよね、うん、分かるよ……



 そして、合コンを提案したのにはもう一つ理由があった、それは商業ギルドの受付のお姉様方からのお願いがあったからだ。


――さかのぼる事数時間前――


 私とセオは馬車で行くほどでもない、とってもご近所にある商業ギルドへと、危ないからという理由で仕方なくかぼちゃの馬車を使い、商業ギルドのギルド長であるベルティに会いに来ていた。

 ベルティには新商品が出来ると見せに来ては意見を貰っていて、私とセオの常識の訓練も兼ねているらしいのだが、これは会頭としての私の仕事の一つでもあった。ここでベルティに合格を貰えると、やっとリアム達が販売の為の手続きを進めて行ってくれるのだ。


 私は知らなかったのだが、これはリアムの仕事の多さに見かねたベルティからの提案だったらしい。私があまりにも世界がひっくり返りそうな商品(魔石バイクやメレオン君や惚れ薬等々……)を作るために、販売して良い物かどうかの判断位はベルティが手伝うと言ってくれた様だった。そんな事はまったく気が付かず、これがどの店も当たり前の事だと信じた私は、セオと共に商業ギルドに足繁く通っているのであった。


 そんな帰りに商業ギルドの受付の女性たちから声を掛けられた、彼女たちの休憩室へと通されると、私はついでに店で販売予定のケーキを数点出し、味見をしながら話を聞くことにした、思わぬケーキの登場に緊張の面持ちだった彼女たちの表情が緩んだので、良かったなとホッとしたのだった。


「あの……ララ様、私はパオラと申します」

「そう言えばお名前を聞いていませんでしたね……」


 これだけ頻繁に商業ギルドへ来ているにも拘らず、彼女たちの名前を知らなかったことに今更ながら驚いた。

 代表して話してくれているのがパオラ、その隣がエンマ、そしてその横がガイア、今受付に座っているのがグレタらしい、この忙しい商業ギルドの受付を支える頼もしい女性たちだ。

 そんな彼女たちからどうやらスター商会の会頭である私に何かお願いがある様であった、三人とも真剣な表情そのもので少し怖いくらいの顔をしていた。

 大きく深呼吸するとパオラは代表して話し出した、三人とも手をぎゅうっと祈るように組んでいる、爪が食い込むほどの力の入り具合が少し恐ろしい。


「あの……スター商会で働く男性従業員の方を紹介していただけないでしょうか?」

「「はい?!」」


 思ってもみなかった言葉に、思わず私とセオは間の抜けた返事が揃ってしまった。


 どうやら今街で噂のスター商会の男性陣は、ブルージェ領の未婚の女性からかなりの人気がある様だ。リアムの現状を見れば分かる通り、繁盛店であり、スターベアー・ベーカリーで働く女性たちは常に美しい服や化粧品を使っている事から、嫁になってその恩恵に授かりたいと思っている女性は沢山いるとの事であった。

 そして何よりも噂で聞いたとされている、スター商会の寮の事が人気の秘密だだとパオラたちは言った。憧れの高級寮とブルージェ領で評判に上がり、商業ギルドの受付には街の女性たちからの問い合わせが殺到しているとの事だった。


 寮の事は内緒なのに……噂って怖い……


 そして何よりも結婚相手として望まれる理由にはスター商会の男性従業員の人柄がある様であった。開店時に優しく振る舞われた女性たちの多くが虜となり、男性従業員の嫁にと熱望しているようだ。


「あの……それって、アダルヘルムとかマトヴィルの事では無いですよね?」


 あの二人目当てで結婚を希望されてもちょっと困ってしまう。多分普通のお嬢さんではあの二人のお相手は無理であろう、年齢以前に色々と付いて行けない気がするのだ……


「ああ、いえ、勿論アダルヘルム様方の情報を商業ギルドへ聞きに来られる方もいらっしゃいますが、それは憧れに近い物で……スター商会の男性従業員の方は結婚相手として見られているのでございます!」

「は、はあ……」


 熱がこもった物言いにちょっと引いてしまったが、確かにスター商会の男性陣はレベルが高い人たちばかりだと思う、仕事もできるし見た目も良い、その上このブルージェでは考えられない位の高給取りだ。それで中身も優しいとあれば人気になるのもしょうがないだろう。


「これを見て下さい」


 テーブルの上にドンと出されたのは書類の山であった。私とセオが目を通してみると、それは商業ギルドに出されたスター商会への見合いの申込書で有った。


「これは……」

「以前リアム様にはお渡ししたのですが……従業員にお見合いはさせられないと断られまして……」


 たぶん私(ディープウッズ家)の事があるからだろう、リアムはこのお見合い申込書を返事も出さずに処分したそうだ。

 だが、諦め切れなかった女性たちからは、今も毎日の様に商業ギルドにこれだけの手紙が届くのだとパオラは話してくれた。スター商会で一度でもお見合いの場を設けてくれたら、商業ギルド側でも断るのが楽になるのだとお願いされたのだった。


「でも何故ウチの店に直接送ってこないのでしょうか?」

「ララ様……流石にそれは、常識が無いと断りの理由になってしまいますので……」

「えっ?」


 リアムの所へ来る見合いの申し込みも本人からではなく、親や商家の会頭からだ。本人から、それも女性本人から急に申し込みをして来ても、不敬となり相手にされないとの事であった。だからこそ商業ギルドからのお薦めとして、スター商会に話して欲しいと皆言ってくるのだそうだ。


「それで……希望者は……何名でしょうか?」

「ざっと100名ぐらいでしょうか……」

「「100?!」」


 セオと私は顔を見合わせて驚いたが、これでも最初に渡したものを破棄した分だけ少ないのだとパオラ達は言った。私は頭を抱えながら考えた、これは一気に片を付けた方が良いだろう。100対スター商会男性従業員で、お見合いではなくもっと気軽な合コンをしてしまおう、私はそう思い彼女たちに了承したのだった。


 そして帰り際、彼女たち4人にもそのお見合いに……いや合コンに参加したいと言われ、そちらにも了解し、商業ギルドを後にしたのだった。


 そして今に至るのだが……


「つまり、貴族のお見合いパーティみたいなものか?」


 リアムの言葉に頷いて見せる、商業ギルドが困っていること、そしてスター商会の男性陣に出会いがない事を上げて、説得を試みていた。自分もその従業員に含まれているとは思っていないリアムは、特に問題は無いと思っているようなのだが……


「人数が合わないだろう……女性が100人超えって……こっちはしょうがなく俺を入れたとしても、10人ちょっとだろう? カイを出すのも、トミーを出すのもなあ……」


 カイは成人仕立てで有り、トミーはミリーといい雰囲気だ。合コンに出すわけには行かないだろうとリアムは言った。かと言ってアダルヘルムとマトヴィルを出せば大騒ぎになるだろうから、リアムもそこは反対だと私と同意見で有った。


 そこで――


「大丈夫! 私も出るから!」

「「はぁ?!」」


 リアムとセオの声が揃い、周りにいるランス達も驚き頭を抱えてしまった。でも私はニッコリと笑って皆の不安を取り除いた。


「大丈夫! ノアの姿で出ますから!」


 胸をドンと叩いて安心させて見せたのだが、何故か全員に大きなため息を付かれてしまった。とにかくノアの姿で大人しくしている事を条件に、私も何とか合コンに参加させてもらえることになったのだった。


 そして当日、スター商会の応接室の壁をすべて取り除き、パーティルームにして、100名の女性がきても十分な広さにした。

 食事は立食形式にしており、スター商会のマスコット熊のマッティやスターベアー・ベーカリーの皆が張り切って作ってくれた、スター商会自慢の料理が並んでいる。これだけでも合コンに集まった女性たちは十分に満足しているようであった。


 そして会場には大勢の着飾った女性が居るため、青くなったスター商会の男性陣が揃っていた。こういう場に慣れているリアムやランスは上手に女性たちの相手しているようだったが、他の面々はかなり固くなっていた。特にジュリアンは見ていられない様子で、ジョンが自分も緊張しているのに、傍でサポートしてあげているようだった。


「ララ……本当にその姿で出るの?」


 いつもより小さく見えるセオが私に聞いてきた。


 そう、私は成長剤を飲み、今大人のノアに変身しているのだ!


 この薬(成長剤)を作るのは大変なうえに、背が伸びるときはとても痛みが伴い、二度と飲みたくないと思わせる薬であった。ディープウッズの森に何度も入って、やっと材料を揃え、今日の為に頑張って作った物だ。何とか出来た薬は2時間分だけで、今日のパーティーの間だけこのノアの姿でいられる、合コン限定ノアであった。


 頼まれてももう飲みたくないし……体中痛かった……



「セオ大丈夫、壁際で大人しくしているから、心配いらないよ」


 にっこりと笑う私を見てセオはため息をついていたが、私は時間が無いため、合コンが始まっている会場に堂々と入っていった。

 すると会場中の全ての人の視線が私に集まり、中にはグラスを落とす人や、真っ赤になってその場にしゃがみ込む人まで現れてしまった。


 何でだろう……



 この時セオはノアになっているララの姿を見て、会場中が動揺しているのがすぐに分かった。突然20代の見目麗しい男性が会場に入ってきたのだ、それに気が付いて誰もが振り返っているのが良く分かった。

 ノアはエレノアの血を色濃く引いているので、とても、そう……この世の物とは思えないほど美しいのだ。まるで月の妖精か何かだと思われてもおかしくない位で、薬を飲んで成長した姿だと分かっているセオでさえも思わず見とれてしまう程であった。

 銀髪に輝く髪を後ろで一つにまとめ、白く透き通る肌にルビーの様な美しく輝く瞳を持ち、一瞬で人を虜にする母親(エレノア)譲りの微笑みを持っているのだ、それも仕方のない事であった。


 何も知らない女性が見たらその魅力に気を失うか、心臓が止まってしまってもおかしくないなとセオは思ったのだった。


 何よりも普段から子供のノアの姿を見て知っているリアム達でさえも、口を開けて呆けているのだ。初めてノアに会う女性たちが注目するのも仕方ない事であるとセオは思ったのだった。


「皆さま本日はようこそお越しくださいました、会頭のノア・ディ……ノアです。どうかスター商会のパーティーをお楽しみください」


 そう言って月の女神の様なノアが(男だが)ニッコリと微笑むと、数名の女性が胸を押さえて倒れてしまった。そしてそれを心配してノアが女性たちを覗き込むと、今度は鼻血を出して倒れる人が続出してしまった為、この合コンはここで中止となってしまったのだった……


 この後、この合コンの噂を聞きつけた貴族や他店の会頭から、スター商会の会頭への見合いの申し込みや、招待状などがじゃんじゃん届き、その返信にリアム達はてんてこ舞いになるのだが、それはまた別の話なのである――

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