第3話
同業者がどう思っているかは知らんが、傭兵なんてもんは金さえあればどんなことでもやる便利屋だ。
盗み、用心棒、人攫い、殺し。
農民だろうが、ご立派な騎士様だろうが、それこそ無抵抗の女、子供でも容赦なく殺す。
俺たち兄弟がクソッたれなこの世界で生きるために必要なら何でもやる。
恐れることなんてない。
弟と二人なら何だって出来る。
そう思っていた。
「クソが!何なんだあの女は!」
俺が気圧された。まだ男も知らなさそうな小娘に。
ただそこに立ちはだかっただけでだ。
「あ、兄貴、ブルーノ兄貴大丈夫か?」
取り乱した俺に弟は声をかけてくれる。
俺のたった一人の家族。馬鹿で女好きだが俺に付いて来てくれる大切な家族だ。
悪いと一言返し思案する。
今回の依頼を寄越したのはよく世話になっている仲介屋だ。
馬鹿高い仲介料をふんだくられるのをわかっていてそんなことをするのは、大体後ろ暗い依頼だからだ。
だから依頼人のことは詮索しない、これは俺たちの中で暗黙のルール。
要人の妻か娘の誘拐。莫大な報酬と依頼内容を聞いたときは胡散臭さはあったがそんなところだと納得した。
だが続いての話がさらに不可解だ。
武装して関所に行けば会えると。まぁそれらしい女には会えたわけだが……
それに加えてあの関所、ベルク王国は交通と商業の要衝、そんな所で騒ぎなんて起こしたら帝国やカフマンの連中が黙っちゃいねぇ。
「ああぁぁ!わっかんねぇ!」
あの女はダメだ、この依頼はダメだ。
あいつを肌で感じた体が、依頼の経緯を考えた頭が、俺に言っている。
今回の仕事はヤバい。
だが提示された報酬が俺を素直にさせてはくれない。
あれだけの金が入れば傭兵なんて危険な仕事から足を洗える。
立派な屋敷に旨いメシ、女にだって困りはしない。
弟にだっていい思いをさせてやれる。
「やれるだけやってみるか……」
あの女がヤバいのは確かだがあっちから仕掛けて来るような様子はなかった。
何人かけしかけて様子を見るくらいはやってもいいだろう。
そうと決まれば……。
「バルトルト、一旦帝都まで戻るぞ」
「おう兄貴!なんかいいこと思いついたんだな?」
「まずは仲介屋を締め上げる。それと何人か使えるやつを雇う」
仲介屋にちょっかいを出すのは今後の仕事に響きそうだが、今回の仕事さえ上手くいけば問題無い。
俺たちはブーゼ帝国の首都へと向かった。
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