銀槍で奏でる演奏家"Silver spear performing musician"

魔物モンスター化:一般的には人族や兎人族などの魔物以外の生物が死亡した時に、後述する"マイナスエネルギー"が身体に溜まりすぎると魔物化する。無論、マイナスエネルギーが一切身体に溜まらなくても魔物化することはあるが、マイナスエネルギーが関与した魔物は総じて強力で凶暴な個体となる場合が多い。】


激しい戦闘を終えて、洞窟に戻った俺が最初に行ったことは睡眠だった。ハウンドの死体をこの吹雪の中、運ぶのはそれなりに重労働だった。最低限の解体と焼いていた肉を食べた後は、もう限界だった。毛布にくるまって横になると、数分後には夢の中である。

目が覚めると、外は相変わらず猛吹雪だ。起きてからは、まず生活魔法の清潔を身体にかける。改めて自分の服装を確認するが、学校の指定制服の上に紺のコートを重ねているだけだ。中のワイシャツやズボンは、ここ数日の戦闘でボロボロになっている。新しい服が必要だなと感じる。そのためにも早くこの地獄ガリア平原から脱出しなければならない。


「……よしっ」


目標を再確認しながら、昨日ハウンドに噛まれた右手を見る、思った以上に出血に困らされた。槍と魔法を含めた戦闘技術を高めた方がいいと思う。立ち上がったその時だった……


ギイィィィィィィィィィィヤァァァァァァァァァ!!


……なんだ?この鼓膜が破れそうな雄叫びは、俺は耳を塞ぎながらその雄叫びに顔をしかめていた。その雄叫びはただの鳴き声と言うよりは、黒板を引っかいた様な不協和音が入り混じったものだった。少なくともハウンドでは確実に出せない音域だろう。


≪熟練度が一定に達しました。スキル『考察(レベル4)』が『考察(レベル5)』に上昇しました。≫

≪熟練度が一定に達しました。スキル『爆音耐性(レベル1)』を獲得しました。≫


洞窟から出ると、数メートル先に雄叫びの正体はいた。

その正体は大蛇だ。大蛇はこちらに気づいたらしく、鑑定する暇も無く襲いかかってきた。クソッ……こんな猛吹雪でも滑らずに正確に動けるのかよ……ハウンドはその足の速さを活かして雪の上を駆けていたが、この大蛇は鱗が滑り止めになってるのか、ハウンド級の速さでは無いが非常に正確な動きをしている。しかも、大きさはハウンドより何倍も大きい。


≪熟練度が一定に達しました。スキル『考察(レベル5)』が『考察(レベル6)』に上昇しました。≫


「それぇ!!」

俺は槍を大蛇の身体に突き刺すが、鱗が槍を弾き、肉が衝撃を消している。大蛇の尾が俺の身体を吹き飛ばした。その隙を見逃さずに大蛇は俺の肩に噛み付く。無駄が無い殺意の結晶、猛毒の牙が肩から体内の深い部分まで突き刺さった。


「ぐへぇ……」

人生二度と出すことも無いであろうマヌケな声と共に、とんでもない量の血液を口から吐き出す。大蛇はその長い舌で、俺の吐血を美味しそうに舐めとっていた。

「うっ……」


あまりの激痛に耐えきれず、俺はそのまま地面に倒れ込む。恐らく蛇毒、それも出血性の強い毒だ。傷口が燃えるように熱い。今すぐ解毒しなければ死んでしまうだろう。だがもう既に手遅れなのは明らかだった。


「くそ……ここまでかよ……」


先程までの決意や目標も、こんなにあっさりと崩れ去るものなのか。結局俺も無様に死んでいくだけなのだ。悔しさと情けなさで涙が出る。今までもギリギリの戦いはあったが、ここまで圧倒的な力の差を見せつけられた上に、相手は毒という武器を持っているのだ。勝ち目などあるはずが無い……吹き飛ばされた衝撃で骨も折れただろう……弱ってるのが分かる……ああ……父さん……母さん……姫乃……また家族に会いたかったなぁ……


――まだ終わりじゃないですよ


終わりだろ……今にも大蛇は俺を丸呑みしようとしているのに……毒と骨折で、俺は一歩も動けない……


――ここで諦めますか?両親や姫乃さんにも会えないのに?


……時には諦めも肝心だろ?


――白骨死体ヴィクターさんに誓ったのでは?


……そうだ……まだ終わりじゃない……俺は……決めたんだ……


――


「……そんなに俺を喰いたいのなら……こいつを喰らえぇぇ!!火球!火球ぅ!火球!!火球ぅぅぅ!!」


大蛇の口の中を4つの炎の弾丸が貫く……これだけでも十分な致命傷になるが……


「こいつも持ってけぇぇ!!」


スキル『旋律』の効果により銀の槍に魂の叫びが付与された。その一撃には美しさすら漂う。大蛇の鱗を穿ち、肉を裂き、骨を砕く。大蛇は雄叫びを上げることすら出来ずに地面に叩き付けられる。その肉塊は二度と動くことは無かった。


≪熟練度が一定に達しました。スキル『毒耐性(レベル1)』を獲得しました。≫

≪熟練度が一定に達しました。個体名"トモヤ・ハガヤ"がレベル3になりました。≫

≪身体の損傷を再生します。体内の猛毒が弱毒に変化します。≫

≪基礎戦闘力上昇しました。攻撃力がDからCになりました。防御力がDからCになりました。≫

≪スキルポイントを入手しました。≫


「洞窟に帰らなきゃ……簡易治療……簡易治療……」


≪タイタン:蛇型の魔物。非常に巨体で猛毒を持ち、ハウンドを簡単に丸呑みする戦闘能力を持つ。また"下級冒険者殺し"の異名持つ魔物でもある。≫


何とか洞窟に戻ってきたが、疲労とまだ体内に残った毒で、一歩も動けない……クソッ……ん?なんだこれ?吹雪で飛んできたのか、黄色い花が洞窟に入ってきた。鑑定発動。


≪ドイレイスフラワー:強い解毒効果を持つ薬草。≫


助かったのか……薬草を何とか掴み、口に入れることができた。ピンチを乗り切った俺は安心からか意識を失った。


――それは私からのプレゼントです 実に面白かったですよ良い退屈凌ぎになりました


≪ドイレイスフラワー:強い解毒効果を持つ薬草。。≫


――――――――――――――――――――――――

「なぜトモヤ・ハガヤを生かした?お前の持論である"死ぬ時は、どれほど強大な存在であっても死ぬ"に則れば、タイタンの猛毒で死ぬのが道理だろうに。」

「観ていたでしょう?頑張る青年にプレゼントですよ。」


黒き鎧を纏う男が、目の前の女性に威圧しながら言った。それに対して女性は笑みを浮かべながら言った。


「退屈凌ぎと言った癖にか?それに招待者にしては随分過保護なことだな。」


男は呆れた様にに言うと、女性から視線を外した。


「で、イザベル。お前の真意なんだ?」

「真意も何もありません。それに招待者だからですよ。最低限のモテナシはしないといけませんからね。」

「…………そうか。」


男は短く答えると、再び女性を見た。男の表情は影に隠されてはいるが、その瞳には哀愁の色が見える。


「それに元はを貴方が止めていれば、今回の事態には至らなかったのですからね。」

「戯言を言うな……それに止めた所でお前は満足したのか?」


イザベルと呼ばれた女性は微笑んだまま言った。男の声色からは、「お前のことを知っているぞ。」という強い圧を放っていた。


「そうですね……もし仮に止めたられていたら、私は退屈で自殺したかもしれませんね。」

「死ぬ気も無い癖によく言う……」

「失礼な人ですね。私だって自殺する時はしますよ。」


イザベルはその言葉に口角を上げて笑った。対して男の表情は「そうか……」と言った後から全く変化しない。


「ふふふ……やはり貴方は面白いですね。バラン。貴方が私のことをこの世界で一番理解しているのではないでしょうか?」

「……今に始まったことでは無いが、随分と傲慢な考えだな。所詮、ありとあらゆる存在は大海の一滴でしかない。」


バランと呼ばれた男は少しだけ目を開いた後、突き放す様に言った。


「【繝い繝繝シ繝茨シ#4477FF】さんの言葉ですね。私も好きですよ。自分も含めて、全宇宙が大海の中の一滴だと言い切る思想、でしたよね?」

「…………俺はミーアを追う、お前はどうする?」


暫く沈黙が流れたが、バランは口を開いた。


「もう暫くは彼等を見守りますよ。」

「そうか。」


イザベルはバランに返答すると、不敵な笑みを浮かべた。バランはイザベルの表情を一切視界に入れずに、その空間から転移した。


「彼等の物語は始まったばかりですね……」


イザベルはゆっくりと呟いた。


――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

生命力:C

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:D→C

防御力:D→C

魔力攻:E

魔力防:E

走 力:C


現在使用可能なスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『火魔法(レベル1)』火を操る魔法。

『寒冷耐性(レベル3)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『考察(レベル6)』物事を予想し、記憶力や思考力を高める。

『苦痛耐性(レベル3)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『爆音耐性(レベル1)』音のダメージを和らげて、活動しやすくする。←new

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。←new

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護 。※本人は獲得したことに気づいていない(気づけない)。


現在の持ち物

銀の槍(無名)

ハウンドの肉、ハウンドの皮

ヴィクター・アガレスの日記帳

毛布(ハウンドの皮をつなぎ合わせた物)

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