第377話 舗装道路
時間を遡り、南洋の調査がポンペイ島にまで及んだ頃。
俺はホクト城で南洋の調査結果の報告書を読んでいた。
「パラオ諸島が手に入ったか。ユナーツに対抗するためには、ニュージーランドまで領土としたいが、難しいかもしれんな」
ユナーツが凄い勢いで領土を広げているのもあるが、列強諸国もスマトラ島を領土に組み込みジャワ島を目指している。
「上様、我々もボルネオ島やニューギニア島などの大きな島を狙ってはどうでござろう?」
武将のナイトウが進言した。
「効率的に領土を広げるには、大きな島を確保した方が良いのだが、そういう島には大勢の原住民が居る。その原住民を統治するのが、大変なのだ」
「しかし、列強諸国は原住民が居るかどうかなど関係なく、領土を拡大しておりますぞ」
「そうだな。だが、原住民の意識が高まれば独立運動が始まり、植民地を手放す事になるだろう」
そうなれば、植民地に投じた資金が無駄になる。唯一アマト国が植民地にしているのは、チュリ国と桾国の一部だが、そこは独立国として手放すつもりでいる。ちなみに、その地域は『大陸領土』とアマト国では呼ばれている。
「チュリ国や黒虎省、江順省を手放すのでございますか?」
「政治的には手放す、だが、経済で制御するつもりだ」
「如何するのでございます?」
「まず、流通する貨幣をアマト国のものに統一する。そして、カイドウ銀行を大陸領土に進出させる」
最近、アマト国にカイドウ銀行を設立し、銀行業を始めたのだ。貿易が盛んになり、遠隔地とのやり取りを円滑に行う上で為替手形が必要になったのである。
国民も銀行にお金を預けるという事を当たり前に行うようになった。その銀行を大陸領土に進出させ、その地域のお金の管理をさせようと考えたのだ。
「その地域の人々が、アマト国の銀行を信用して、金を預けるでしょうか?」
「大陸領土はまだまだ治安が悪い。家に金を置いておくより、銀行に預けた方が安心だと気付くようになるはずだ」
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
その大陸領土の総督となっているヨリチカは、総督府の支配地が落ち着き始めたのを感じていた。
「タダノブ、ようやく落ち着いてきたようだな」
孫のタダノブが頷いた。
「ですが、李成省の雷王と桾国が、また戦いを始めそうです」
「いつもの事だ。防備を固めて放っておけば良い。それより、道の整備をせねばならん」
大陸領土は戦乱が続き、禄に道の整備などをしていなかった。そのせいで荷物の運搬にも支障があるほど、主要街道が荒れてしまったのだ。
「本国の土木会社に、道路整備を依頼してはどうですか?」
ヨリチカが首を傾げた。道の整備などというのは、大勢の人足を集めて地道に整備していくものだったからだ。
「本国から人足を集めるのか?」
「違います。ホクトなどの道路は、アスファルトで舗装するようになって、格段に使いやすくなりました。ここも主要街道くらいはアスファルトで舗装するべきだと思ったのです」
ヨリチカは長い間アマト国へ戻っていないので、アスファルトで舗装された道路を見た事がなかった。そこで一度ホクトへ行き、舗装道路というものを見学する事にした。
ヨリチカはホクトへ行って、実際にアスファルトで舗装された道路を見た。ホクトの幹線道路はアスファルトで舗装されており、その上を自動車は走っていた。
「ふうっ、こんな光景を見ると歳を感じてしまう。私が海外を渡り歩いている間に、これほど変化しているとは……年に一度はホクトへ来て、新しい事を学ぶ必要が有りそうだな」
ヨリチカは上様と会い、大陸領土の主要街道をアスファルトで舗装したいと願い出た。その願いは聞き入れられ、チュリ国・黒虎省・江順省を結ぶ主要街道が舗装道路となる事が決まった。
大陸領土には金を掛けないと言っていた上様を説得したのは、ヨリチカだった。『大陸の人々にも、人間らしい生活をさせてやりたい』という一言が、上様の気持ちを変えたらしい。
まず測量部隊が主要街道を念入りに調べ、ホクトの土木会社に道路整備を発注した。チュリ国の首都、黒虎省の領都、江順省の領都に土木会社の従業員と重機が運ばれ、舗装工事が始まった。
ブルドーザーと呼ばれる重機で道路を平らにして、砕石などを敷き詰め平らにした後、粒砕石や砂とアスファルトを混ぜたものを熱して道路に敷き平らに均す。
大陸領土に住む人々は、初めて見る舗装工事に驚いていた。
「あれは何なのだ?」
ブルドーザーが豪快に道を平らに均し始めると、近隣の住民が見物する光景があちらこちらで見られるようになった。
この工事には現地の人々も人足として参加した。この地方に近代的な舗装道路が作られ始めると、それを見た近隣諸国は、アマト国は何かが違うと思い始めた。
桾国人の役人である呉一鳴は、ヨリチカ総督に晨紀帝から書状を届けた帰りに、舗装工事を見て溜息を漏らす。
「これが文明国の道なのか。桾国がアマト国に追いつくのは、いつになるのだろう」
そんな事を考えながら、呉は帰国の途に就いた。
その頃、呉が持って来た晨紀帝からの書状を読んだヨリチカは顔をしかめた。その書状には、雷王と戦うために同盟を結ぼうと書かれていた。
「晨紀帝は何を考えているんだ?」
「どうしたのです?」
タダノブが書状を読んで唸っているヨリチカに話し掛けた。
「晨紀帝が、同盟を結ぼうと言ってきた」
「あの皇帝、何か悪いものを食べたんでしょうか?」
アマト国と桾国は敵対国なのだ。それがいきなり同盟を結ぼうと言ってきたのは、正気を疑うレベルの話だったのである。
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