第366話 同盟国の豊かさ
マンフレート総督とファルケンベルク将軍はホクト城へ向かった。アポイントメントは取っていたので、すぐに謁見の間に案内された。
俺が謁見の間に入ると、すでにギルマン王国の総督と将軍が来て待っていた。通訳を通して挨拶を聞き、厳しい表情をしたまま、バナオ島のフィルチ村について、どういうつもりなのか訊いた。
「その件に関しましては、大いなる誤解があったようです」
総督が弁明を始めた。それによると、村人たちがギルマン王国の難破船から物を盗もうとしたと勘違いした兵が起こした事件だったという。
「そのために村人が八人も亡くなったのだ。ギルマン王国には責任を取ってもらう」
総督が謝り、賠償金を払うと言う。
「罪を犯した兵たちは、すでに死んでおるので、今回は遺族に対する賠償金だけで終わらせる事にする。だが、次に同じような事が有れば、オルソ島の植民地を制圧し、それを取り上げるだろう」
俺は警告した。総督は承知したと頭を下げたが、将軍は無表情で俺の方を見ていた。こいつは納得していないな、と感じた。
兵たちも殺されたのに、賠償金まで払うのかと文句が有るのだ。その顔を見てまた何かしでかしそうだと直感する。忍びたちに監視させねばならないだろう。
総督と将軍が帰ると、俺はホシカゲを呼んだ。
「上様、あの将軍の件でしょうか?」
「そうだ。どうやら何か起こしそうだ。監視をしてくれ」
「畏まりました」
ホシカゲは国内の諜報活動を総括している『草魔』の頭領であるハンゾウのところへ向かった。交易区は『草魔』の忍びが監視していたからだ。
謁見の間に残った俺は、限がないと考えていた。桾国が問題を起こし、次は列強国のイングド国やフラニス国が攻めてきた。それを撃退するとユナーツが戦いを挑んで来て、今度はギルマン王国である。
「どうやったら、列強国の連中にアマト国が同等以上の先進国だと、分からせる事ができるのだろう?」
それを聞いたトウゴウが一つの提案をした。
「列強諸国のどこかに領土を得て、近くでアマト人が暮らすようになれば、先進国だと分かるようになるのでは、ありませんか?」
「ほう、トウゴウは過激な事を考えるのだな」
「知らぬから、昔の情報で判断するのだと思います。近くでアマト人の暮らしぶりを見れば、同等以上の先進国だと分かるはずでございます」
「なるほど。だが、列強諸国に得た領土を守る軍を置き、近隣国から侵略されないようにする必要がある」
「はい。膨大な費用が必要だと思われます」
俺は思わず溜息を漏らした。
それを実行するために必要とする資金を考えると、今以上に経済を拡大しなければならない。
「まずは、極東同盟の同盟国を豊かにするか」
それを聞いたトウゴウが首を傾げた。
「なぜでございますか?」
「貧乏なままの同盟国では、アマト国で作った商品を少ししか買ってくれん。豊かになれば多くの商品を買うようになるだろう」
「なるほど、そういう事でございますか。ならば、同盟国が豊かになるのは大事です」
俺は同盟国を豊かにする方法を考えた。コンベル国の特産品は、
「そう言えば、綿繰り機というのがあったな」
綿繰り機というのは、綿の実から種子を取り除いて綿繊維を取る機械である。コンベル国はその作業を手作業でやっていたはずだ。それを機械化すれば、もっと儲かるようになるだろう。それをトウゴウにも話す。
「それだと綿繰りの作業をしていた者が失業するのではないですか?」
トウゴウが鋭い質問をする。
「それは過渡期の事だ。仕事は他にも有る。例えば、土作りや肥料の用意だ」
コンベル国の綿花栽培は、自然に任せるという方法で行われている。雨の少ない年や多い年には収穫量が減り、病気が蔓延すれば全滅も有る。
アマト国では農薬の研究も進めており、アマト国で多い作物の病気に対して有効な農薬の開発も進めていた。これからはコンベル国で流行っている作物の病気についても研究をさせようと思う。
「バラペ王国は、どうしますか?」
「そうだな。あそこは金・亜鉛・鉛などの鉱山が多く、それらが輸出品となっている。だが、それだけではまずいだろう。大豆でも栽培して油や油から作る商品を輸出するかな」
「油なら菜種の方がよろしいのでは?」
「この大豆油で石鹸を製造して、販売しようと考えているのだ。それに絞り粕を家畜の飼料にする事もできる」
トウゴウが頷いた。
「なるほど、面白いですな」
俺は農作業で必要な機械も研究させようと考えた。まず汎用的な農業機械である農業用トラクターを開発し、ロータリーやプラウなどと呼ばれる土を耕す機械を牽かせて、広い農地を耕せるようにするのが良いだろう。
ちなみに、狭い農地を耕す機械は、耕運機と呼ばれているようだ。その他にも田植機なども有れば、便利そうである。
「どうして農業を支援する機械の開発に、力を入れるのでございますか?」
「農業を機械化して、必要な農民の数を減らし、造船業や自動車産業、建設業に従事する労働者を増やそうと考えている」
先進国になるほど農民の数が減り、第二次産業や第三次産業に従事する労働者が増えるという歴史を知っているので、先取りしようと考えたのである。
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