第364話 ギルマン王国陸軍の小手調べ

 ファルケンベルク将軍はアマト国が支配しているバナオ島の情報を集めた。それに加え少人数の兵を小型船で密かにバナオ島へ送り出し、地形を調べさせた。


 バナオ島の南西には、フィルチという漁村があり、その村なら少人数で占拠できるのではないかと作戦を立て始める。形としては、難破した船がバナオ島の沿岸に辿り着き、原住民といさかいを起こして身を守るために村を制圧したという筋書きにする予定である。


 今回の作戦はアマト国陸軍と小競り合いを起こし、敵の戦力を確認するというのが目的である。形勢が不利になったら、オルソ島に逃げ帰るという作戦なので、大した問題にはならないだろうと将軍たちは考えていた。


 その考えをアマト国の人間が聞いたら、なぜ大した事にならないと考えるのか、不思議に思っただろう。ギルマン王国の将兵は、極東の者たちを人間とは思っていないのではないか。


 こういう考えを列強諸国の人々が持つようになったのは、奴隷貿易のせいだった。極東から大勢の人々が連れ去られ、列強諸国で奴隷として売られたのだ。


 列強諸国の人々は、極東を奴隷の供給源と見ていたのである。だが、それも極東同盟が結成されるまでの事だった。極東同盟は奴隷貿易を取り締まっている。なので、列強諸国は奴隷の供給源をアフリカ大陸に移したようだ。


 海が荒れた日の翌日、フィルチ村の砂浜に一隻の輸送船が乗り上げて横倒しとなった。船に乗っていたギルマン王国の兵は上陸し、装備を陸揚げする作業を始める。


 それにフィルチ村の人々が気付いて、救助の手伝いに向かう。ギルマン王国兵は、その村民に向かって銃で攻撃する。攻撃されるとは思っていなかった村人は、次々に倒れて息を引き取った。


 そして、ギルマン王国兵たちは、フィルチ村に雪崩込み村を制圧したのである。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 その報せを聞いたバナオ島総督のミノブチは顔を強張らせる。

「何だと! それで村人はどうなった?」

 報告したヤゴロウという忍びは、村人のほとんどが一箇所に集められ、人質になっている事を報告する。


 ミノブチは陸軍のサタケ大佐を呼んだ。アマト国陸軍は列強諸国やユナーツと合わせるために、階級の改定を行っている。


 士官や将校を『将官』、『佐官』、『尉官』の三段階に分け、それぞれを大・中・小に分けたのである。サタケ大佐は旅団規模の部隊を指揮する指揮官になる。


「大佐、フィルチ村がギルマン王国の兵により、占拠された」

 サタケ大佐は、なぜそんな事に、という顔をする。

「ギルマン王国の目的は何でしょう?」


「分からない。大佐は救助部隊を編成して、フィルチ村へ向かって欲しい」

「了解しました」

 サタケ大佐は、ヤゴロウから情報を聞いて、どれくらいの兵力が必要か算出した。ギルマン王国兵の数が、五十人ほどだと聞いたサタケ大佐は、百三十人ほどの中隊を送り込む事にした。


「キミヅカ大尉、君の部隊に課せられた任務は、村人を救出し、ギルマン王国兵を殲滅させる事だ」

「殲滅させてよろしいのですか?」

「構わない。捕虜にしても勝手な事を言って、捕虜を取り戻そうとするだろう。初めから殺す方がマシだ」


 サタケ大佐は苛烈な軍人だった。ギルマン王国兵が村人の一部を射殺し人質に取った事実により、射殺して当然の敵と認識したのだ。


 キミヅカ大尉は中隊を率いて、フィルチ村へ向かった。

「大尉、ギルマン王国兵は強いのですか?」

 第一小隊のオオバヤシ少尉が、尋ねた。

「フラニス国に勝利した国だ。強いと思うが、ギルマン王国の情報は不足していて、どれほど強いのか分からない。だから、絶対に油断などするなよ」


「もちろんです。ギルマン王国の奴らに『バナオ島の悪魔』、と呼ばれるようにしてみせますよ」

 それを聞いたキミヅカ大尉は、苦笑いする。


 ポンポン自動車に乗ってフィルチ村へ向かったキミヅカ大尉たちは、村の近くでポンポン自動車から降りると、小銃と荷物を担いで歩き始める。


 村の直前で忍びらしい男に止められた。

「キミヅカ中隊の方々ですか?」

 オオバヤシ少尉が前に出て答える。

「そうだ。忍びの者か?」

「はい、状況を伝えるために来ました。この先でギルマン王国兵が見張っています」


 見張り兵の事を伝えるために出てきて、キミヅカ大尉たちを止めたらしい。

「分かった。気付かれないように森の中を行く事にする」


 キミヅカ中隊は森を抜けて村がある場所まで来た。村の様子を覗き見ると、ギルマン王国兵が見回りをしていた。


 キミヅカ大尉は村人が監禁されている建物を発見した。その建物は魚の干物などを作るために建てられたものらしい。


「見張りが二十人ほどか。狙撃できるだろうか?」

 小隊長たちを集め建物の位置を確認させて、狙撃に適した兵の配置を話し合った。決まると小隊単位に移動を開始する。


 キミヅカ大尉は第一小隊と一緒に移動した。すると、抵抗して殺された村人の姿が見えた。その周りではギルマン王国兵が、談笑している。


「許せんな」

 オオバヤシ少尉が呟いた。それを聞いたキミヅカ大尉が口を開いた。

「すぐに報いを受ける事になる」

 兵たちが狙撃の準備を終わらせたのを確認したキミヅカ大尉は、懐から出した時計で時間を確認してから、合図する。


「撃て!」

 百以上の銃弾が見張りの兵を薙ぎ倒す。二十人ほどの見張り兵が死に、第一小隊は建物に向かって走り始めた。建物の中に突入すると同時に銃声が聞こえた。


 建物の中にもギルマン王国兵が居たようだ。だが、すぐに建物の中から村人たちが逃げ出して森に飛び込む様子が見えた。


 銃声を聞いたギルマン王国兵が駆けつけて来る。キミヅカ大尉はサタケ大佐の『殲滅しろ』という命令を思い出した。


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