第281話 桾国の動静
俺は桾国の雷王について探らせていた。このところ桾国が混乱していて、いくつもの戦が同時に起きているようなのだ。その中心に居るのが李成省の雷王である。
雷王は李成省の南にある百布省を巡ってイングド国と争っていたのだが、先日コイヤン平原の戦いにおいてイングド国陸軍を破り、百布省を手に入れた。
「やはり雷王軍十五万、イングド国陸軍六万という兵力差を、新兵器では埋められなかったという事か」
ホシカゲと評議衆が頷いた。
「雷王は、その勢いで江順省を攻めるつもりでいるのか?」
「いえ、百布省の東にある
「常陽省は、晨紀帝が支配している領土だったな。雷王は晨紀帝を倒すつもりなのか?」
「たぶんでございますが、そのつもりのようです」
トウゴウが俺に視線を向ける。
「晨紀帝は、チトラ諸島に手を出してくる余裕が有るようです。ここは静観して、雷王の活躍を期待するのは、どうでしょう」
雷王の力を借りて、晨紀帝の力を削ごうという意見である。それが正解だろうと俺も思った。ただ雷王が力を持つと怖い存在になりそうなので、それをどうするか?
「常陽省は、それでいいだろう。だが、雷王が常陽省を取り、首都ハイシャンがある
雷王が漢登省に攻め入り首都を奪うような事になれば、桾国は滅び新しい国が生まれる事になる。アマト国としては、大陸に強力な国家が生まれる事を望んではいなかった。
「その時は、晨紀帝に力を貸すのでございますか?」
「個人的には、晨紀帝になど力を貸したくないが、滅びてしまうのも困る。援助するしかないだろう」
桾国の沿岸部にある三省ほどを支配下に入れて、緩衝地帯を作る事も考えたが、そうすれば大陸の争いに巻き込まれる事になる。
「上様、海翁島の近くにある射杯省とナンアンがある貴南省、ウーチャンがある南竜省をアマト国が支配下に置き、後は放置するというのが、現実的ではございませんか?」
クガヌマが意見を言った。クガヌマも同じ事を考えたようだ。
「俺もそれは考えた。だが、確実に大陸の争いに巻き込まれる事になる。そんな事をするくらいなら、バイヤル島とチトラ諸島を要塞化して強力な艦隊を置き、極東海を守らせた方がいい」
評議衆が同意するように頷いた。
「蘇采省の成王は、どういう動きをしている?」
俺はもう一人の反逆王について尋ねた。蘇采省は極東海に面した東の端にある省だが、ここを根拠地とする成王が、桾国軍と戦っていた。
ホシカゲが地図を広げて一点を指差した。
「桾国軍の鎮圧軍を率いるのは呂将軍で、成王軍は成王自身が率いているのだったな?」
「はい、そうでございます」
鎮圧軍の兵力は八万、成王軍の兵力は四万という事だ。
「倍の兵力を持つ鎮圧軍が攻め勝てないのは、理由が有るのか?」
「先ほど鎮圧軍を率いているのは呂将軍と言いましたが、正確ではないのです。一度目の戦いで呂将軍が負傷し、
「成王というのは、どういう男か、調べ終わったか?」
「はい、蘇采省の役人だったようでございます。蘇采省を治めていた省長の
俺は首を傾げた。ちょっと話として出来すぎている。その話が真実か、信用できない。
「その話は本当なのか?」
「成王が拝禺を殺したという点は真実だと思われますが、その理由ははっきりしておりません」
「なるほどな。拝禺を悪者にして、自分を正当化するような噂を流したのが成王だとすると、そういう事を気にする男だという事だ。成王は使えるかもしれないな」
コウリキが初めて口を開いた。
「成王に何か仕掛けるのでございますか?」
「武器を援助して、成王が有利になるようにしようかと考えたのだ」
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
桾国の明華省にあるケニャン平野で、鎮圧軍と成王軍が対峙していた。
「
成王は軍師である朴に問う。
朴軍師は難しい顔をして、
「康信が指揮を執っている間は、負けないと思います。ですが、呂将軍の傷が回復して指揮を執れば、危うくなるでしょう」
その時、部下の一人が現れ成王に告げる。
「アマト国将帝の使者だと申す者が来ております」
「将帝の使者だと、こんな時に……」
朴軍師が口を挟んだ。
「成王様、アマト国は列強国を倒したほどの強国です。お会いになって話を聞く事にしましょう」
「分かった。連れて来い」
少ししてから、部下が一人の男を連れてきた。三十歳前後のがっしりした体格の男だった。
「お会いできて光栄に存じます。私はアマト国の将の一人であるミノブチ・カネナリと申します」
カネナリは挨拶をしてから、主が書いた書状を成王に渡した。
そこには成王を援助したいと書かれていたが、その代償は何も書かれていなかった。成王は胡散臭いと感じたが、正直援助は欲しい。
「さて、アマト国は、どのような援助をしてくれるというのかな?」
「まず、単発銃二千丁と銃弾を援助いたします」
単発銃は列強国が桾国に持ち込んでおり、少数なら成王軍も所有していた。ただ銃弾を作る技術がない成王軍では、実戦で使えない。
「銃弾はどれほどもらえるのだ?」
「五万発分でございます」
それを聞いた朴軍師がニンマリした。
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