第91話 カイドウ家懲罰軍

 カイドウ郷で行っている事業は、ほうじ茶と烏龍茶・紅茶・正腹丸・ハムと燻製・砂糖・銃関係・硝石生産・綿火薬と雷汞・ランプ生産・ガラス工芸品・芋焼酎・大砲生産などである。


 自分でも色々やったものだと感心する。これらはカイドウ郷だけで行っている事業なので、他も含めるとまだまだ増える。


 カイドウ郷には、ほうじ茶と烏龍茶・ハムと燻製・砂糖・火縄銃・硝石生産・芋焼酎の事業を残す事にした。それを聞いたイサカ城代が首を傾げる。


「火縄銃の生産もカイドウ郷に残すのでございますか?」

「鉄砲鍛冶のトウキチと単発銃、綿火薬や雷汞の生産は、ホクトへ移す。だが、火縄銃や硝石生産だけはカイドウ郷へ残すつもりだ」


「ですが、火縄銃は使わなくなるのでは?」

「カイドウ家では使わないが、他に売ろうと思っている」

「下手に売ると、敵の手に渡る事も有るのではございませんか?」


「分かっている。しかし、カイドウ家が売らなかったとしても、列強諸国の商人やクジョウ家から買うという者が多いだろう。そんな商人を儲けさせるくらいなら、カイドウ家が儲けようという事だ。但し、敵になる勢力には売らない」


 ホクトに移すのは、紅茶・正腹丸・単発銃・綿火薬と雷汞・ランプ生産・ガラス工芸品・大砲生産になった。紅茶やガラス工芸品は列強諸国に人気が高いので、交易区があるホクトで生産するのがいいだろう。


「殿、本当に桾国の軍が来るのでしょうか?」

「影舞の情報に間違いはない。ただ桾国のような大国は動きが遅いのだ」


 イサカ城代は納得したようだ。

「桾国との戦が終わらねば、モウリ家を潰す戦は起こせませぬな」

「そうだな、困ったものだ。早めにフラネイ府を『州』にしたいのだが」


 俺はモウリ家を滅ぼし、すっきりした状況で『府』から『州』へ体制を変え、太守となるつもりだ。太守になったからと言って、何かが変わる訳ではない。それは分かっているが、太守になれば、クジョウ家やカラサワ家と並ぶ事になる。


 昼食を食べるために、奥御殿へ戻った。

「ミナヅキ様、今日の昼は鰻にいたしました」

「鰻か、いいな」


 ミザフ河で獲れた鰻が献上されたらしい。鰻の養殖も始めるかな。昔から鰻は食べられていたが、タレが喪失していたので白焼きか塩焼きが定番であった。


 俺はタレを使った蒲焼きを復活させた。白焼きや塩焼きも鰻本来の味が楽しめて美味しいのだが、やはり蒲焼きが旨いと感じるのだ。


 フタバやチカゲ、それに息子のフミヅキも蒲焼きが気に入ったようだ。フミヅキはフタバとチカゲの二人から食べさせてもらっている。


 『あーん』と言われて小さな口を開けると、そこにうな重が入れられる。モグモグと食べるフミヅキは、日々大きくなっているように感じる。


 こういう時間は幸せを感じる。うな重最高だな。

「ミナヅキ様、ホクト城に温泉があるというのは、本当でございますか?」

「本当だ。ホクト城から二キロほど離れた場所に温泉が自噴している事が分かり、その湯を城まで引いたのだ」


「それは嬉しいです。毎日、温泉に入れるのですね」

 チカゲが首を傾げた。

「殿、そんな遠くからお湯を運んでくるのでは、冷めてしまいませんか?」


「源泉の温度が高いのだ。運ばれている途中に温度が下がり、丁度いい温度になるらしい」

「それはいいですね」

 フミヅキが抗議の声を上げた。二人の手が止まったので、うな重を催促しているのだ。


「フミヅキも自分で食べるようにする時期だな。フミヅキ用のさじを作らせよう」

 俺がそんな事を言った途端、フミヅキが重箱から手掴みでうな重を取って口に入れた。その結果、テーブルの上にうな重が散らばる。フタバが眉をひそめ俺を睨む。


 一歳から二歳の子供は、皆こんな感じだ。俺が言ったせいではないはずだ。

 俺が昼食を終え、仕事部屋に戻るとホシカゲが待っていた。

「元居留地に桾国水軍の船が現れました」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 桾国のカイドウ家懲罰軍の船は、元居留地の海岸に停泊した。指揮官の黄都尉は、海岸線が無防備なのを見て取りニンマリした。


「上陸してしまえば、こちらのものだ。許校尉、どう思う?」

 黄都尉の副将である許校尉は、渋い顔をしていた。

「兵のかなりの人数が体調を崩しておりましたが、陸に上がれば元気になるでしょう」


「全く、船酔いなど気合が足りん証拠だ」

 桾国の兵が上陸し、近くにある村へ向かった。その村を占領した懲罰軍は、村人を殺し略奪した。桾国人はミケニ島の住民を野蛮人と呼ぶが、どちらが野蛮人なのかという声が上がりそうだ。


 その村で残虐な行為を繰り返した懲罰軍は、食糧や価値の有りそうなものを根こそぎ奪った。そして、次の町を目指して移動を始める。


「ふん、何もない村だった。あんな場所でも占拠して陛下に差し出せば、私の功績になるんだ。どんどん行くぞ」

 懲罰軍はイングー人が兵舎などを建てていた場所に向かっていた。戦死した紀南の墓があるのなら遺体を掘り返して持ち帰れ、と命じられているのだ。


 懲罰軍は戦場跡地に来た。ここがイングド国海軍のギャレット少将たちとカイドウ軍が戦った場所であり、紀南が戦死した場所だった。


 桾国人の戦死者は、海岸に近い場所に埋められていた。墓らしい場所に墓標があったので分かった事だ。その墓標には戦死した日と名前が書かれているものもあった。


 捕虜となった桾国人が、戦死者の名前を教えたのだろう。

「これだ。これが紀南様の墓だ。掘り返せ」

 掘り返した遺体は相当傷んでいたが、豪華な棺桶に入れて船に運ぶように命じた。この遺体は一足先に桾国に戻され、正式に埋葬される事になっていた。


「これで命じられた事の半分が終わった。残りは暴れ回るだけだな。カイドウ家の奴らめ皆殺しにしてやる」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 その報せは元居留地に派兵されたクリコマ守備部隊に届けられた。この部隊を率いるのはクガヌマである。四千の兵を率いるクガヌマは、上陸地点に部隊を急がせた。


「ハヤテ、敵の鉄砲兵の数は?」

 影舞ハ組のハヤテは、即答する。

「二百ほどでございます」

「ほう、意外と少ない。カイドウ軍は舐められておるのでござろうか?」


「カイドウ軍ではなく、ミケニ島の住民を野蛮人だと馬鹿にしているのです」

「そんな風に思っているなら、思い知らせてやる」

「ですが、敵の兵力は五千でございますぞ」


 クリコマ守備部隊には、五百の鉄砲兵が含まれている。その中の五十は単発銃を装備する者たちだ。また十門の野戦砲も運び込んでおり、数の劣勢は鉄砲と大砲の威力で何とかできるだろうと、クガヌマは考えていた。


「クガヌマ様、部下から連絡が来ました。敵はカモトの町に迫っているようです」

 カモトというのは、ワキサカ郷に近い町で紅花が特産品となっている町だった。


「まずいな。急ぐぞ」

 クガヌマは野戦砲を運んでいる部隊を分離して、守備部隊を急がせカモトへ向かった。


 守備部隊が到着した時、桾国の懲罰軍が町を襲い黒い煙が上がっていた。それを見たクガヌマは、唇を噛みしめる。


「遅れたか」

「報告します。桾国軍五千がカモトの町民を殺戮しています」

「桾国人め。敵の本陣はどこだ?」


 ハヤテが高台になっている場所を指差した。攻め難い場所だ。クガヌマはまず町を襲っている桾国人を倒すように命じた。


 町中での戦いになり、急襲された桾国人がバタバタと倒された。

 それに気付いた敵将は、味方を呼び戻したようだ。町から桾国人が居なくなり、高台の上に隊列を作る敵の姿が目に入る。


 敵の使者がクガヌマの下へ来た。

「何だと、紀南を殺した罪を詫びて、殿の首を差し出せだと……あいつら狂っているのか?」

 ハヤテが否定した。


「いえ、正気です。殿がどのような存在か、知りもせずに自分たちの皇帝の前に、ひざまずかせようとしているのです」


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